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共感するロボットを設計すること


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ロボティクスによる発達の理解

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共感というシステムは生物種を越えて拡張可能であるという説があります。


そうすると、もしかしたらロボットにも共感が可能になるかもしれません。

というわけで、今回は人工的に共感するロボットを設計するというおもしろい試み「情動発達ロボティクスによる人工共感設計に向けて」を紹介してみます。

発達心理学の知見を参照してロボットを設計するして、その過程で得られた知見によってさらに発達のメカニズムがより深く理解できるようになるのではないか、というおもしろいコンセプトです。

興味深いのは、設計者がロボットの脳に直接プログラムを書き込んでいくのではなく、ロボットと人間との身体的な接触を通じて得られたデータを元にして、ロボット自身が能動的に学習してプログラミングしていくという方式をとっているところです。

つまり、ロボットの赤ちゃんにも母親役が必要みたいです。


ロボティクス(ロボット工学)という思考法

「理学」は「どうなっているのか」を探求する学問で、「工学」は理学をベースとして「どうしたら実現できるか」を探求す学問です。

工学の考え方は「とりあえずやってみないとわかんない」というノリなので、実践の積み重ねによって帰納的に試行錯誤を重ねて理解を深め、少しずつ解決に近づいていくアプローチをとります。

この考え方は臨床医学に通じるところがあります。

発達心理学や精神分析は「かくあるべし」という考え方になりがちで、ともすれば独善的になったりします。実際の臨床現場ではひとりひとり複雑な事情がからんでいて一般化しにくく、知識が役に立たないことが多かったりします。

単純に独特の表現や用語が苦手なので敬遠しているひとも多かったりするので、これからはロボティクスから発達を学ぶ方が理解しやすいという人が増えるのかもしれません。


人工共感の設計

オランダ出身の著名な動物行動学者フランス・ドゥ・ヴァールは、共感の構造をマトリョーシカみたいな入れ子構造であると説明しています(情動感染<EE<CEの3層構造)。

人工的に共感するロボットの設計は、それとは比べものにならないくらい精緻な構造になっていて、概念図がスゴイことになっています。
人工共感の発達

ざっくり解説すると、
  1. 自分と他人の区別がつかない状態において、ミラーニューロンシステムを基盤とした身体運動の同期(ものまね)と他人の感情が自分へ伝わること(情動伝染)が連携し、養育者とのやりとりを通じて、自分と他人を認識するようになります。

  2. 自分と他人の区別ができるようになることに並行して、共感も発達します。

  3. 自分を基準に考えることができるようになると情動的共感(EE)が生まれます。

  4. 自分と他人を完全に区別できるようになると、他人の視点で考えたり、他人の心をシュミレーション(心の理論)できるようになり、認知的共感(CE)が生まれます。

  5. 自分の感情を制御できるようになることで、相手の感情に同期しながら、異なる感情を引き出すこと(同情・憐れみ)ができるようになります。

  6. 自分を自分で客観的に観察すること(メタ認知)ができるようになると、

  7. 相手の感情とは逆の感情を社会的文脈(自分が所属する集団と外部の集団との関係)に沿って引き出すこと(妬み・メシウマ)ができるようになります。


カウンセリング・ロボットの可能性

ロボットによる人工的な共感が可能になれば、カウンセリング・ロボットができたりするかもしれません。

キャリアカウンセラーの役割を人間とロボットで比較した研究があります。まだまだ発展途上のロボットなので、カウンセリングの満足度は低かったようですが、意外な効果があったようです。
ロボット群の参加者の中には,「キャリアカウンセラーだったら,ついつい相手に答えがあると思って頼りにしてしまうけれど,相手がロボットだから,自分でストーリーをつくらなきゃと思う」と認識し,ロボットを発話の記録主体と位置づけ,自分でメモをつくり,メモの記録内容を最終過程で統合し,キャリアアンカーを意味づけた者が存在した.
カウンセリング・ロボットは発話内容を繰り返す「リボイス」によって、クライアントから「聞き手」として認識され、共感が生まれた事例が報告されていることがとても興味深いです。

そもそもカウンセリングは、クライアントに対して答えを教えてあげるのではなく、自分自身で答えをみつけることを支援するものなのですが、ついついカウンセラーに対して「答えを知っている人」という幻想を抱いて依存してしまい、自分で答えを探すことができなくなることがあります。


ドラえもん療法

JOJO風ドラえもん
ところで、ロボットと言えば「ドラえもん」。四次元ポケットからいつも凄い道具を出してくれますが、調子に乗って使っているとろくなことにはなりません。頼りになるのか頼りにならないのか、そもそもなんでネコなのか、わけのわからない存在です。

「決して頼りにはならないけど、いつも味方になってくれる、わけのわからない存在」というのは理想の治療者像なのではないかと個人的に思っていたりします。つまり「ドラえもん療法」。

というわけで、「なんでも知っている」という幻想をふりまいてとっても頼りになりそうな治療者よりも、ちょっとした共感システムを搭載したロボットの方が優秀な治療者になる可能性があるかもしれません。

次回は、「共感のダークサイド」について考えてみたいです。


共感のバランス


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「共感」という言葉は当たり前のように使われ過ぎていて、深く考えることがなかったりします。あらためてよくよく調べてみると、けっこうややこしくて奥が深いモノだったのでまとめてみます。

EEとCE、ふたつの共感

ふたつの脳機能

まず、共感は大きく分けて2種類あります。

①情動的共感(Emotional Empathy:EE) 
②認知的共感(Cognitive Empathy:CE)

①EEは、相手の感情に自らも同調して生じる共感です。
古い系統発生の原始的なシステムで、生得的で自動的に「情動感染」や「ミラーニューロンシステム」による模倣からボトムアップに生じる、自律神経系を巻き込んだ身体的な反応です。

②CEは、相手の立場になって気持ちを推しはかる共感です。
比較的新しいシステムで、類人猿とヒトに発達。後天的、意識的で、知識や推論を統合してトップダウンに生じる、いわゆる、心の理論(ToM)とかメンタライジングと呼ばれるものです。

ASDの共感/サイコパスの共感

「アスペルガー症候群」という名称は、1944年に最初の症例を報告したハンス・アスペルガーの名を冠して、1981年にローナ・ウィングが発表したものです。

もともとは「自閉的精神病質=自閉的サイコパス(Autistische Psyachopathie)」と名づけられていました。

症状のひとつとして「共感能力の欠如」があげられて「サイコパス」と称されているのでまぎらわしいのですが、一般的には自閉スペクトラム症(ASD)と反社会性人格障害(サイコパス)との違いはCEとEEの二分法で説明されていたりします。

サイコパスは「高CE+低EE」です。他人の立場に立って相手の弱点や欲望を把握するのが得意なので、他人をうまく操作することができます(高CE)。一方で、他人にひどいことをしても心拍数が上がらなかったりします(低EE)。

前回「色彩感覚からの共感能力」とりあげたサイモン・バロン=コーエンの「共感-システム化理論(EST)」では、自閉スペクトラム症(ASD)は「低CE+普通EE」と言われています。他の研究者の間でも、ASDはCEが苦手ということはコンセンサスを得られています。


一方で、EEに関しては諸説さまざまで、ASDは高EEだという立場もあったりします。


共感不均衡仮説「低CE+高EE」

ASDが高EEかもしれないのは、他者よりも自己志向でToMが弱いためEEが抑制されにくいのではないかという考えがあって「共感不均衡仮説(empathy imbalance hypotheses:EIH)」と言われていたりします。

ASDの二次障害が重いケースでは、不幸にもつらい体験を重ねることによって共感能力がすり減って、シゾイドパーソナリティ(低CE+低EE)っぽくなるひとがいたりします。

あるいは、高EEを保つことよってサイコパス化やシゾイド化を回避することができるのかもしれません。


高EEは感覚過敏?

ASDの症状のひとつに感覚過敏があります。


最近はなんでもかんでも感覚過敏としてひとくくりにされがちだったりしますので診断基準を確認してみると、、、
Hyper- or hyporeactivity to sensory input or unusual interests in sensory aspects of the environment(DSM-5)
ざっくり言うと、特定の刺激に対して敏感に反応してしまったり、ハマってしまったりすることです。

単に感覚が鋭いというわけではなく、いくつかの感覚を統合することが苦手だったり、感覚刺激を予測することが苦手なために、特定の感覚に対してビックリしてしまう傾向のことを言います。

というわけで、直接は共感能力に関わりがなさそうですが、なんらかの形で関与している可能性があるのかもしれないので、また調べてみたいです。

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