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精神科病院への強制入院が急増している理由


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前回からの続きです。

最近、ひきこもりのひとが精神科病院へ強制入院させられたことがニュースで話題になっていました。

というわけで、精神科病院への強制入院って現状どうなっているのか、精神科救急にどっぷり関わっていた経験をもとにまとめてみました。


日本は外国と比べて精神科病院のベット数が多すぎるとか、入院期間(平均在院日数)が長すぎるだとか、よく批判されています。それはそれでおおきな問題なのですが、それよりも注目すべき事実があります。


急増する強制入院(措置入院・医療保護入院)

急増する強制入院

強制入院とは、本人が同意していない入院のことです。本人の意志に関係なく、医療者側の判断によって決定されます。

実は、精神科病院への強制入院する患者数がこのところ急増しています。なんと、ここ20年間で措置入院は約2倍、医療保護入院は約3倍、2014年には約17万件の強制入院があったようです。

これはけっこうスゴイことなのですが、あまり話題になっていないようです。

精神科病院入院患者の推移

さんざん批判されている在院患者数は減少に転じているのですが、それを補うかのように強制入院の割合が増えているのが興味深いところです。


強制入院が増えている理由

① お金がもうかるから

これは精神科医療の業界ではよくいわれていることなのですが、精神科救急はめちゃくちゃもうかります。なにしろ一般病棟の約3倍以上の収益をあげることができるからです。ちょうど5つ星ホテルの宿泊料なみです。

もちろん、5つ星ホテルのような設備やサービスは必要ありません。一般病棟よりも個室の割合が多いだけで、設備はだいたい場末のビジネスホテルなみです。

「精神科スーパー救急病棟」って広告をみると何か特別な治療をやってるように思われがちですが、スタッフの数が若干多いだけで、いたってフツーの精神科治療がなされています。つまり、多少のコストで莫大な収益を生む構造になっているので、経営者はなんとしてでも精神科救急をやりたいわけです。

で、どうやったらできるかというと、さまざまな施設基準を満たす必要があります。なかでも、「入院患者の6割以上が強制入院である」という条件をクリアしなければなりません。つまり、本人の同意による入院/任意入院よりも、強制入院をさせると金銭的メリットがあるというルールが設定されているわけです。

② 手間がかからないから

また、本人の同意による入院/任意入院はなにかと大変です。まず、治療者との信頼関係が前提になるし、治療の意義とか方針を丁寧に説明して、その必要性を理解してもらわなければなりません。精神疾患の場合、自分が病気であるという自覚=病識がなくなることもあるからたいへんです。なので、本人の同意で入院してもらうためには、知識も技能も時間も必要になるわけです。

さらに、任意入院しているひとは行動がある程度自由になるので、入院中のトラブルや事故などのリスクがなにかとつきまといます。

その一方で、強制入院は治療者との信頼関係がなくても、丁寧な説明がなくても、患者さんが理解していなくても可能です。極端な話、専門的な知識や技能がなくてもいいし、短時間で済ませることが可能だったりします。

③ 精神科病院は中小企業だから

病院って特別感があったりするのでピンとこない方もいるかと思いますが、ほとんどの精神科病院は構造的には家族経営の中小企業みたいなものです。で、そこにいる精神保健指定医は病院から給与をもらっているサラリーマンです。

そこで、①お金がもうかる上に、②手間がかからないとなると、中小企業の経営者はどうするか。

良識ある経営者ならともかく、モラルのない経営者であれば、本来は任意入院できるケースを強制入院させてしまうことを選ぶでしょう。

かくして、本来は必要のない強制入院をさせた医師は評価され、任意入院をさせた医師は経営者に呼び出されてお説教されたりするわけです(実話)。

良識ある医療者は反発するでしょうが、みんな病院からお給料をもらっている従業員なので、そうカンタンには逆らえません。

さらに、精神科救急で財務状況が良好な病院ほど高い給料(口止め料?)を支払う余裕があります。

で、経営陣の方針に忖度できるひとほど出世して要職について権限をもつようになり、忖度できないひとは排除され、強制入院の捏造がごくあたりまえの慣習になっていくわけです。

ってことで、モラルのない経営者ほど収益を上げることができるルールになっている以上、良識ある経営者は収益を上げにくくなっているので、今後ゆっくりと淘汰されていくことになるでしょう。

あるいは、もともと良識あるひとでも経営者になったとたんクソ野郎に成り下がっちゃうことも珍しくありません。ってことで、だんだんモラルのない経営者がはびこる業界になっていくことが予測されます。


どんな精神症状があったら強制入院になるの?

いやいや、そんなにカンタンに強制入院させれるわけないやんけ、と思う方も多いでしょうから、強制入院の要件を確認してみましょう。

参考:精神科救急医療ガイドライン2015年版/日本精神科救急学会(PDF)
非自発入院(強制入院)の判断基準

1)精神保健福祉法が規定する精神障害と診断される。
まず、1)の精神保健福祉法が規定する精神障害とは、
第五条
この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。
精神保健福祉法詳解
ここで、「その他の精神疾患」とは「精神保健福祉法詳解」によると、国際疾病分類ICD10のF4以降のすべて、すなわち精神疾患なら全部OKなのです。

実はこの「その他の精神疾患」は、1993年法改正で新たに追加された歴史があります。つまり、もともとは狭い範囲の精神障害のひとだけ対象とする基準が緩和され、強制入院のハードルは低くなっているわけです。



さらに強制入院のガイドラインをみてみましょう。
非自発入院(強制入院)の判断基準

2)上記の精神障害のために判断能力が著しく低下した病態にある(精神病状態,重症の躁状態またはうつ状態,せん妄状態など)。

3)この病態のために,社会生活上,自他に不利益となる事態が生じている。

4)医学的介入なしには,この事態が遷延ないし悪化する可能性が高い。

5)医学的介入によって,この事態の改善が期待される。

6)入院治療以外に医学的な介入の手段がない。

7)入院治療についてインフォームドコンセントが成立しない。
2)たとえば軽いパニック症でも不安が高まった状態であれば一時的に判断能力が低下することがあります。

3)精神疾患である以上、なんらかの「社会生活上、自他に不利益となる事態」は生じているでしょうよ。そうでなければ医療機関にかかっていません。

4)まあ、そうでしょう。そうでなければ医療機関にかかっていません。

5)放置するよりもケアする方がいくらか改善するでしょう。

6)7)は主観的な判断なので、ある程度精神状態が悪そうなら、満たすといえなくもないでしょう。

というわけで、実は強制入院の基準はかなり主観的かつ曖昧なので、精神保健指定医のさじ加減ひとつでいくらでも解釈が可能になっちゃうわけです。つまり、法令による縛りはあってないようなものなので、運用は精神保健指定医の良識に委ねられています。

なので、実際には精神症状ではなく、経営者の方針とか病院の慣習とかベットの空き状況によって強制入院が決定されることがあるわけです。判断をする精神保健指定医はサラリーマンなので、病院の方針には逆らえなかったりするからです。


強制入院のチェックシステム/精神医療審査会

強制入院は人権侵害のリスクが高いのに、そんなダルダルな基準でよいのでしょうか?というわけで、ちゃんとチェックシステムが定められています。

強制入院が不当だと感じたひとが申立をすれば、精神科医療審査会が開催されます。精神科医、精神保健福祉士、弁護士など有識者数名が集まって強制入院が妥当だったかどうか審議してくれるという、とても頼もしい制度です。

それで、実際に入院が不当であると判断されたケースをどのくらいあるかというと、、、

退院請求の結果
H26年では医療保護入院169,799件、措置入院6,861件、全部で176,660件の強制入院が報告されています。そのうち退院請求が3,289件で、審査されたのが2,437件。その結果、入院または処遇が不適当と判断されたのは、たったの104件です。

104/176,660=0.00058870146

つまり0.06%、10,000件中6件しか不当であるとみとめられていないのが現状です。めちゃくちゃ低い確率ですね。

さらに、申立てから審査会が開催されるまでにはだいたい1ヶ月以上かかります。

申立てしたところでひっくりかえる確率は低いし1ヶ月もかかるんだったら、賢明な人ならどうするかというと、主治医の言うことを聞いておとなしく入院生活をやり過ごしてさっさと退院してしまうわけです。うまくいけば1ヶ月くらいで退院できるからです。

最近は、精神科病院に入院すると先に入院している患者さんが「従順なフリしとけば早く退院できるよ」ってことを親切にオリエンテーションしてくれたりするらしいです。

となると、精神症状が安定していて客観的に現状を分析できるひとほど審査会を利用せず、認知症のひとや病状の重いひと、あるいはクレーマーほど利用することになったりします。

つまり、本来審査会が必要なひとほど利用せず、不必要なひとが利用することに事務コストを使っているというシュールな状況が生まれていくわけです。

ともかく、ゆるい基準で強制入院させることができて、しかもチェック機構が有効に機能していないって、なかなかすごいことだと思います。


強制入院が不当であることを立証することは可能か

さて、ひきこもりの自立支援施設の入所を拒否したために精神科病院へ強制入院/医療保護入院になったひとが、処遇が不当であるとして病院側に対して損害賠償請求訴訟を起こし、病院の医師を刑事告訴したケースがあります。さて、強制入院が不当であることを立証することは可能なのでしょうか?

被告側は強制入院が妥当だった証拠をあげなければならないわけですが、診察した精神保健指定医がカルテに記載すればそれがそのまま証拠になるのでカンタンです。よほどずさんなカルテなら問題でしょうが、悪徳な病院ほどぬかりなくカルテ記載を厳重にチェックしていたりします。

一方で、強制入院の要件をみたす精神症状が「なかった」ことを原告側が証明することはとても困難です。本人がいくら証言しても「病識がない」とか「認知の歪み」であると反論することが可能だからです。

さらに、医療保護入院になったということは、本来であれば最大の味方であるハズの家族が強制入院に賛成しているので孤立無援になっているわけです。ワンチャン、病院のスタッフが内部告発して証言してくれるかもしれませんが、見ず知らずのひとのために生活の面倒をみてくれている病院を裏切ることができるでしょうか?

っと、まあたいへん殺伐とした話になりましたが、、、まとめると、精神科病院とか精神保健指定医が悪徳かどうかというモラルの問題に矮小化してしまうよりも、制度の不備とかシステムの問題として考えていく必要があると思う今日このごろです。

次回は、精神科病院への強制入院が激増した理由を別の観点からまとめてみます。


ひきこもり自立支援施設ってどうなの?


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前回からの続きです。


今回は民間業者が運営するひきこもりのひとを自立させる施設について考えてみます。

とそのまえに、ひきこもり支援の概要についてみてみましょう。


ひきこもり支援の3ステップ

厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」によると、ひきこもりの支援は大きくわけて3段階のステップとなっています。
  1. 家族の支援
  2. 本人の支援
  3. 集団への参加
ざっくり説明すると、、、

1.家族の支援
ひきこもりの支援は家族からの相談を受けることから始まります。本人はひきこもっていて出てこないからです。この「家族の支援」が1番肝心なところで、ひきこもりの問題は本人だけではなく家族を巻き込んでいくので、家族自身も消耗・疲弊していてケアが必要になっていることがよくあるわけです。なので、まずは家族が元気になってもらって、本人との関係を調整していくことから始めていきます。

2.本人の支援
支援者が家族を介して本人に間接的にアプローチすることができるようになれば、徐々に変化がみられるようになります。本人が来院なり通所するようになれば、もうかなり状況は改善しているといえるので、あとひと息です。支援者が本人へ直接アプローチすることができるようになれば、変化はより促進されます。

3.集団への参加
最終段階として、いよいよ集団へ参加します。ここまで到達できればほとんど目標達成といえます。適切な環境さえ提供できれば、同じ境遇の仲間と接して共に時間を過ごすだけで、かなりの改善効果が見込まれます。しょせん親や支援者の立場にいると本当の意味での交流はできないし、仲間にはなれないからです。


ひきこもり自立支援施設の強み

さて、問題になっている業者は、ひきこもりの自立支援のために共同生活をする施設/寮をもっていて、強引に入所させるところから支援が始まる場合があるようです。

つまり、1と2のプロセスをすっ飛ばして、いきなり3の最終段階からスタートすることができるわけです。

倫理的な観点を無視して、純粋に支援の効率だけを考えれば、これはかなり有利であると考えざるを得ません。1と2はかなり時間と労力のかかる地道なプロセスだからです。

昔から戸塚ヨットスクールはじめ、さまざまな若者の自立支援施設が(一時的であるにせよ)注目されて人気を博すことがあるのは、共同生活による改善効果が絶大だからでしょう。
  
ではなぜ、このような民間の自立支援施設がさまざまなトラブルを起こしたりして長続きしないのでしょうか?


自立支援施設でトラブルが多いワケ

原因のひとつとして考えられるのは、統合失調症などの深刻な精神疾患を抱えるひとを対象にしている可能性です。

民間の自立支援施設は、共同生活の場という強みをもっていますが、残念ながら精神科医療のシステムがないので、精神疾患のあるケースを適切にケアすることができません。民間業者と違って、医療はリソースがとても潤沢なので人員や設備が充実しています。

また、統合失調症などの精神病は、病気の時期によっては共同生活と相性が悪かったり、自立を促進するはたらきかけが病状の悪化をまねくことがあります。

そもそも、本来は精神科医療で対応すべき精神病をもつひとを民間業者が相手にしているのはおかしな話です。これは、以前の記事で指摘したように、ひきこもりと精神科医療のねじれが関係しているかもしれません。



そもそも、ひきこもりの定義からしてねじれているので、ひきこもりの権威である精神科医の斎藤環が精神病以外のひとを支援の対象とする一方で、資格のない民間業者が精神病のひとを支援の対象としているという「ねじれ」が生じています。


自立支援施設と精神科病院のむすびつき

なので、最近の民間業者は精神科病院と連携してこれを補完しようとしているようです。そうすることによって、自立支援施設で対応できないほど精神状態が悪化した場合は、専門機関へ治療やケアを任せることができるからです。

これはいちおう理にかなっていることのように思えます。

しかし、ニュースによると、ひきこもりの自立支援施設の入所を拒否したために精神科病院へ強制入院/医療保護入院になった方が処遇が不当であったとして、病院側に対して損害賠償請求訴訟を起こし、病院の医師を刑事告訴しています。


原告側は治療のためではなく「見せしめ」のために精神科病院へ入院させられたと主張しています。

まだ事実関係が明らかになっていないのでなんともいえませんが、はたして連携している精神科病院は悪徳業者の片棒をかつぐ悪徳病院なのでしょうか?

争点は、病院受診時に原告がどのような精神状態だったのか、医療保護入院の要件を満たしていたのかどうか、になるでしょう。

というわけで次回は、ひきこもりと医療保護入院についてまとめていきます。


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