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滝川一廣「子どものための精神医学」を読む。その1


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とある団塊世代の児童精神科医

ぼくは精神科医になったときから児童精神科領域に興味があったので、有名な児童精神科医の話を聴きに行ったりしていました。たまたまなのか、団塊世代とその周辺の児童精神科医がよく目立っていたので何人か観察していました。

その結果、独断と偏見で申しわけないのですが、団塊世代の児童精神科医の特徴が3つほどあって、、、
  1. あつかましくてあつくるしい
  2. うさんくさくてカルトっぽい
  3. 思いこみがはげしくてロジカルじゃない
たまたまぼくの行動範囲にそんなひとが多かっただけだと思うのですが、そんなわけで当時のぼくは児童精神科領域から距離をとろうかな、と思うようになったりしていました。

そんな中、ひときわ異彩を放っていたのが滝川一廣先生でした。

滝川先生は団塊世代ど真ん中なのにとても聡明だったので興味をもちました。最初の印象は、声が小さくてナニしゃべってるのかわからないひとでしたが、よくよく耳をすまして聴いてみると、シャープでロジカルかつ独創的な発想をもったひとだったので、著作を読み漁るようになっていました。

児童思春期の臨床に携わるようになってから、はじめのうちはよく参照しながら取り組んでいました。それから10年ほど経て、自分なりのスタイルで診療をするようになってからはあまり参照することもなくなっていましたが、いつも頭の片隅には滝川先生の言葉が残っていたように思います。

ある研究会で滝川先生とちょこちょこお話させていただくようになって、「子どものための精神医学」を献本いただいたので、感想をまとめてみようと思います。

ほぼ10年ぶりに滝川先生の著作を読んでみて、とてもなつかしくなりました。とにかく、これは児童精神科臨床の到達点のひとつであり金字塔です。

子どものための精神医学
滝川一廣
2017-03-27







とても素晴らしい本なので批判するひとは誰もいないと思いますが、よりいっそう理解を深めるために、ここはあえて批判的な読み方をしてみたいと思います。 

滝川先生は団塊世代の児童精神科医としてはおそらく最も優秀なひとなので、団塊世代の児童精神科医が枠組みにしているパラダイムをロジカルにまとめることができています。

それはとても素晴らしいことなのですが、それゆえにそのパラダイムにとらわれてしまっているのではないか、という批判が可能になります。


本書の構成 

かわいらしい表紙に油断してはいけません。読みやすい文体で書かれているものの、かなり読み応えのある専門的な教科書です。450ページの厚みのある本で、以下のように4部構成になっています。
第1部 はじめに知っておきたいこと 
第2部 育つ側のむずかしさ 
第3部 育てる側のむずかしさ 
第4部 社会に出てゆくむずかしさ 
第1部は「理論編」で、発達に関する知識や学説の歴史について考古学的にまとめられています。このへんの古いパラダイムについてまとめることができる優秀な書き手はもうあまり残っていないので、資料としてとても貴重だと思いました。

第2・3・4部は「実践編」で、おもに発達障害の「むずかしさ」について書かれています。発達障害をもつ個人・とりまく家族・そして社会、それぞれのレベルで「むずかしさ」についてとりあげています。

医学書なので当然といえば当然なのですが、ざっくりいうと悲観論からのパターナリズムです。

つまり、発達障害をもつ個人はとても苦労するし、家族もつらい状況に追い込まれるし、社会に出ていくことはとてもむずかしいことなので、専門家の支援が必要である、という流れになりがちです。

まだ発達障害の概念が浸透していなかった時代には重要な考え方であることに間違いありあません。ですが、発達障害の概念が浸透してむしろ過剰診断や過剰処遇が問題となりつつある現在においてもなお妥当かどうか、検討の余地があります。

とくに発達障害は正常から重症までなめらかに連続する概念なので、悲観的な視点にかたよることは本人のもっている能力を過小評価したり可能性を狭めてしまうことになることがあるので要注意です。

また、「昔は良かった」けれども現代社会の変化によって発達障害をもつひとが苦しむようになった、というノスタルジックな説明がよく目につきます。

はたして本当に、昔の社会は発達障害をもつひとにとって幸せな社会だったのでしょうか?もしもそうだったとしたら、その代わりに不幸になっていたひとたちはどんなひとたちなのでしょうか?

これからいろいろ考えてみたいと思います。


不登校の対策として「子ども部屋」を活用する


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自律を育む子ども部屋の機能

前回(自立はややこしいので、とりあえず自律しておこう)紹介した環境心理学者の北浦かほるは、自律とプライバシー意識を形成していくために、子ども部屋が果たす機能を4段階にまとめています。
  1. ひとりで考えごとをする
  2. 空間をコントロールする
  3. 自分の行動を選択する
  4. プライバシー情報をコントロールする

それぞれざっくりまとめてみると、

① ひとりで考えごとをする

ひとりで、静かに、誰にもジャマされない空間を確保することから自律が始まります。
  • 考えごとをする
  • 空想する
  • ボーっとする
  • 本を読む

② 空間のコントロールをする

他でもない自分だけの場所を確保して、維持していく練習をしていきます。
  • 誰も許可なく入れないようにする
  • 入ってくるひとを選べるようにする
  • 大切なものをしまう
  • 部屋を飾る

③ 自分の行動を選択する

自分の行動を選択する場所を持つことは、自律にとって重要です。
  • したいことが自由にできる
  • そこでしかできないことをする
  • 音楽を聴く
  • 叱られたり腹がたったときに行く
  • ひとりになりたいときに行く

④ プライバシー情報のコントロールをする

自分のプライバシーを守るための空間として子ども部屋を利用するようになります。
  • 着替えをする
  • 手紙や日記を書く
  • 友だちと連絡をとる
  • 聞かれたくない話をする
  • 見られたくないことをする

子ども部屋とメンタルヘルスの関係

不登校などの問題が長期化していて困っている児童思春期の患者さんをたくさんみていると、子ども部屋の使い方が独特であるケースが多いことに気づきます。

10歳を過ぎても個室が与えられていなかったり、険悪な兄弟と部屋を共有していてギスギスしていたり、1日中リビングで過ごしていたり。子ども部屋があったとしても、親兄弟が勝手に入って良いことになっていたり、デスクだけ置いてあまり活用されていなかったり、ほぼ物置き部屋になっていたり。

ともかく、あまり機能していないことが多いように感じますし、子ども部屋があってもなくても母親と一緒に寝ることが多かったりします。

もちろん、子ども部屋が活用されていないことが不登校やメンタルヘルスの問題の原因ではないのですが、回復を促進するためには子ども部屋をうまく活用した方がいいのではないかと考えています。


居は気を移す

「居は気を移す」とは、孟子の言葉で「住む場所や環境が多大なる影響を与える」という意味です。

昔から、住居などのアーキテクチャが精神面に与える影響に興味があったので、住居の間取りと動線と活用の仕方を聞くようにしています。家族の関係性とか力のバランスが反映されていることが多かったりするからです。

逆に、精神状態の変動が住居環境に大きな影響を与えることがあります。訪問診療で患者さんのお宅をよく観察する機会があるのですが、精神状態が悪化すると住居環境も荒れてしまいます。

なので、家族システムが不調なケースは、初回の診察時にはなるべく部屋の間取りを聞き取るようにしています。


不登校の対策は休息から始まる

子どもが不登校になったり、メンタルヘルスの問題があると、親子ともに懸命になって解決しようと限界まで努力します。なので、精神科へ相談に来るころにはクタクタになって疲れはてた状態になっています。いくら敷居が低くなったとはいえ、誰もすすんで精神科を受診したくはありませんから。

クリニックでお会いした時点でエネルギー切れの状態になっているので、まずは休息してエネルギーを充電していくことから始めます。


不登校の対策として「子ども部屋」を活用する

子どもが不登校になると、親は不安になって監視や干渉を強めようとしますが、たいていは逆効果となってしまいます。子どもにとっては、おちおち休息できずに疲れをつのらせてしまうことが多いからです。

子どもが休息できずに状態が悪化すると、さらに親は監視と干渉を強めてしまい、以下繰り返しと、悪循環してしまう状況ができあがります。

こんなとき、子ども部屋という空間をうまく活用すればゆっくり休息することができるようになるので、この悪循環を絶つキッカケになることがあります。物理的に距離をとることで、心理的にも距離をとることができるようになります。お互いひと息ついて冷静になったところでまた話し合うチャンスができてきます。

不登校などの問題を乗り越えることは、しばしば自律と成長のキッカケになったりします。それらのプロセスをうまく媒介する便利なツールとして子ども部屋を活用していくことが重要だと考えています。


補足

  • 重い精神障害などで自殺の危険性が切迫しているケースなど、子ども部屋でゆっくり休息している場合ではない状態もありますので、疑わしい場合は医療機関で判断を仰いでください。

  • 住宅の構造的に子ども部屋をつくれない場合でも、可能な限りパーテーションをつけるなどプライベート・スペースを確保することが有効だったりします。

  • 子ども部屋が機能していなくてもうまくいっているご家庭はたくさんありますので、もちろんそのような場合はムリして子ども部屋をつくらなくてもよいと思います。

子育て神話の呪縛


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話題の子育て本を読んでいると、とても興味深いことが書いてあったので紹介いたします。「子育ての大誤解」タイトルはかなりアホっぽいのですが、意外とエビデンス重視の骨太な内容の分厚い本でした。
子育ての大誤解〔新版〕上――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)
ジュディス・リッチ・ハリス
2017-08-24



子育ての大誤解〔新版〕下――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)
ジュディス・リッチ・ハリス
2017-08-24







Kellogg博士のクレイジーな実験

自分の赤ちゃん(ドナルド)とチンパンジーの赤ちゃん(グア)を同じように育てるとどうなるか。1931年、心理学者のKellogg博士は今では考えられないクレイジーな実験をやってしまいました。
Kellogg博士とグア
ドナルドとグア
ドナルドとグア2

ネット上には実際の論文「Kellog. W. N. and Kellog, L. A. : 1933. The Ape and the Child.」(PDF注意16.8MB!!!)や動画も公開されています。




想定外の結果、実験の中断


Kellogg夫妻は愛情を込めて我が子とチンパンジーを徹底して対等に育てました。ドナルドとグアはいつも仲睦まじく行動を共にしました。その結果、何が起こったか。

当初この実験はチンパンジーがどこまで人間に近づくかを想定していたようで、グアは簡単な道具を使ったり、いくつか言葉を理解できるようになったのですが、想定外の事態が起こったため実験は中止になりました。

なんと、ドナルドの発達が遅れてしまったのです。


人間とチンパンジーの違い


ドナルドとグアを比較すると運動能力や言語能力など細かい違いはありましたが、決定的な違いは「模倣する能力」でした。ドナルド(人間)はグア(チンパンジー)の行動を模倣することができましたが、グア(チンパンジー)はドナルド(人間)を模倣することができませんでした。

その結果、人間であるドナルドはチンパンジーの行動を模倣するようになり、人間の言葉を覚えなくなってしまいました。

同じ人間である両親がさんざん愛情を込めてドナルドに語りかけていたにも関わらず、チンパンジーであるグアの影響を強く受けてしまいました。つまり、親よりも仲間の影響力の方が「種を超えて」強かったという衝撃的な事実が判明しました。

発達心理学では、幼少期の子どもは親からの影響を強く受けているとされています。いわゆる「三つ子の魂百までも」。そして、思春期になると仲間の影響を強く受けるようになるとされていますが、乳児の段階からすでに親よりも仲間の影響を強く受けるようプログラムされているということになります。


集団社会化説


「子育ての大誤解」では、この他にも子どもは親の影響よりも同世代の子どもの影響を強く受けるというエビデンスがこれでもかと積み上げられ、「集団社会化説」を展開していきます。ざっくりまとめると、、、

昔から子どもの面倒をみるのは年長の子どもたちだった。子どもは自分に似た子どもに惹かれて集団を形成して他集団と差別化を図るようになり、その経験を通じて社会性を獲得していく。結局のところ、親は子どもに対して影響力を行使できないので、親が子どものために犠牲になって努力したってたいてい報われない。だから、親は子どもに執着せずに自分の人生を楽しむべきだ。

これって普段の診療で、子育てに疲れきった親御さんに対してお伝えしていることとかぶっていたりします。


子育て神話の「最後の砦」


ただし、誤解しないでいただきたいのは、親が子育てを放棄していいということではありません。ネグレクトや虐待が子どもに悪影響を与えるのは明白です。

つまり、親が子どもに影響を与えるのはネガティブなことだけで、むしろ虐待が子育て神話の最後の砦になっているのかもしれません。


進化心理学による裏づけ

「集団社会化説」は進化心理学によって裏づけられています。


チンパンジーの兄弟はみな歳が5歳以上離れています。チンパンジーの子どもは5歳まで離乳ができずに母親との密着状態を維持します。チンパンジーの母親は育児に没頭しているため、働いたり次子を妊娠することができません。

一方で、人間の母親は授乳期間が短かく、早々に子どもを集団に預けて仕事をしたり次子を妊娠したりすることができます。つまり、どちらかと言いえば人間よりもチンパンジーの母親の方が子育てに熱心だし、人間は昔から保育所や幼稚園に預けて共働きするのがデフォルトで、誰もが保育士の役割を担っていたと言えるでしょう。

「集団社会化説」は、人類が発展するためにとった「共同作業」と「共同繁殖」という二大戦略による、当然の帰結だとするとスッキリ納得できます。


それでも親にできること


たとえば、学校でいったんスクールカーストが形成されてしまうと、キャラとポジションが固定されて抜け出せなくなってしまいます。


そんな状況下で、精神分析的に親子関係を掘り下げてみたり、行動主義的に行動分析をしても仕方がありません。それどころか、親の罪悪感を煽ってしまうことすらあります。


勉強熱心な親御さんほど「発達の専門家」の自説に従って一生懸命努力するのですが、結果的に、専門家の助言が正しいことを立証するために奉仕しているだけで、全然子どものためにはなっていないようにみえることがあったりします。

集団社会化説によると、子どもが所属する集団においてうまくいかなくなった場合、親は子どもの環境を柔軟に変更してあげることが重要であるという解が導き出されます。実際の診療場面でも、学校内外にいくつもリソースがあるので積極的に利用すべきだし、子どもが安心して所属できる環境へ移動するだけで解決する場合がけっこうあったりします。

「子どもには愛情が必要だからと子どもを愛するのではなくて、いとおしいから愛するのだ。彼らとともに過ごせることを楽しもう。自分が教えられることを教えてあげればいいのだ。気を楽に持って。彼らがどう育つかは、あなたの育て方を反映したものではない。彼らを完璧な人間に育て上げることもできなければ、堕落させることもできない。それはあなたが決めることではない。」

コミュニケーション格差と自閉スペクトラム症の増加


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経済格差よりもコミュニケーション格差が重要ではないかと考えられている昨今です。お金がなくてもコミュニケーション能力が高くて友達がたくさんいるひとの方が楽しく幸せな人生を送っていたりするからです。


スクールカーストの世界


実生活において、コミュニケーション格差が容赦なく反映されるところといえば学校、いわゆるスクールカーストの世界です。ひとクラス40人程度の大集団が、教室という狭い空間で、長時間ともに過ごすことによって、自然と序列が生まれます。

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スクールカーストにおける序列の規準は、コミュニケーション能力に一本化されつつあります。この図では、不良とか運動部が上位となっていますが、腕っぷしやスポーツよりもコミュニケーション能力の方が重視されるようになってきています。

自己主張ができて、場の空気に即応して話題提供ができて、周囲のひとを楽しませることができれば、クラスにおいて存在感を発揮できるようになります。

子どもにとって、クラスにおける存在感があるかないかは死活問題で、いったんカーストの序列が決定されると、「キャラ」が固定されて、容易に抜け出せなくなってしまい、いじめの温床になったりするからです。

こうなってしまえば、年に一度のクラスがえや転校をすることでいったんリセットするしかありません。







このバトルロワイヤル状況をサバイバルし、楽しい学校生活を送れるかどうかは、コミュニケーション能力にかかっているといっても過言ではありません。

このあたりの事情は、理屈よりも優れた映画や小説にふれる方がより実感できるし、とてもよい作品としてもおすすめなので、参考までにご紹介します。

桐島、部活やめるってよ
主演:神木隆之介
2013-11-26


12人の悩める中学生 (角川文庫)
木堂 椎
角川グループパブリッシング
2008-07-25




コメディアンの地位向上


コミュニケーション能力が高いひとたち、といえばコメディアン・お笑い芸人です。その頂点を極める北野武と松本人志はまさに天下をとっているといえます。風体もまさにボスじみてきています。

ちなみに海外ではコメディアンが政党をつくって選挙で躍進してたりします。下位の者が上位の者に対して媚びる表情と仕草が笑いの原型である説があったりして、コミュ力があって笑いのとれる者がひとの上に立つのは必然なのかもしれません。


企業の人材採用規準

企業の人事部で働いているひとに、採用面接でドコを重視するかをインタビューしてみると、「会話のキャッチボールができるかどうか」をみるらしいです。こちらが望んでいるところへ正確に球を返せるかどうか。噛み合わないところがあると、落とされてしまうみたいです。

企業において、集団で協力して効率よくプロジェクトを成功させるには、相手の考えに合わせて柔軟に対応できるしなやかさが要求されるということです。コミュニケーションの不具合は営利企業にとってはコストになってしまうので致し方ないというわけでしょう。

同窓会で高校の同級生に会ってみても、コミュニケーション能力が高くて笑いのとれるひとほど出世しているようでした。論理数学的能力よりも重視されているのでしょう。


自閉スペクトラム症の流行
自閉症の増加

自閉スペクトラム症は脳の器質的な障害なので、自然に増えることは考えにくいのにも関わらず、こんなに増えているということは、自閉スペクトラム症のひとたちが生きにくい世の中になってきていることを反映していると思います。

「自閉スペクトラム症と猿山の関係について」でも触れたように、学校におけるスクールカースト、企業における人事採用規準などなど、自閉スペクトラム症のひとが苦手な能力を要求されるという不利な状況が増えているということでしょう。


子育て神話から自由になるための進化心理学


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共同養育
当クリニックの児童思春期外来を受診する子どもの母親について、みなさんが強い罪悪感を抱いていることについて書きました。


相変わらず、強い罪悪感を抱いてしまっている母親が多いこともあって、これについてもう少し掘り下げてみることにしました。 


母子関係という神話

3歳までは母親が1日中つきっきりで育てた方がよいという、かの有名な3歳児神話。親子関係、とくに母子関係、それも母子一体から母子分離のプロセスについて、児童精神分析・児童発達心理・児童精神医学は驚くべき執念で細部まで記述しようとしてきました。

実際に子育てをしてみるとよくわかるのですが、なかにはトンデモな記述もけっこうあって、そもそもなんでそこまで鼻息荒く必死なのか不思議なところです。。。

これにはわけがあって、第二次世界大戦中に疎開で親子が離れ離れになった経験とか、児童福祉医療施設がたくさんつくられるようになったことなどから、戦後ファミリー・ロマンスが流行したことが、その源流になっていたりするそうです。

ドゥルーズと狂気 (河出ブックス)
小泉 義之
河出書房新社
2014-07-14

 

ロマンティックな神話の弊害

もちろん、現実はそんなにロマンティックではありません。母と子のロマンティックな神話は、かなり根強くオトナたちの思考を規定しています。

子どもがすくすくと問題なく育てばよいのですが、不幸にも子どもに問題が発生してしまうと全て親の責任になってしまいます。特に母親が多方面から批判されて罪悪感を抱くことになります。

経済的にも時間的にも余裕があって、近隣に助けてくれるオトナがたくさんいる母親はまだしも、核家族で頼れる親類が近くにいなかったり、夫の帰りが遅かったりすると途端に厳しい状況になります。ましてや、母子家庭とかほとんど無謀で、そんな状況で立派に子育てできている母親のマネージメント能力は驚異的であるとしか言いようがありません。

何よりも母子関係というロマンティックな神話から自由になることが罪悪感を軽減させることにつながると思います。そのためには別の考え方の枠組みが必要になります。最近読んだ本にヒントがありました。

思春期学
第1章 思春期はなぜあるのかー人類進化学からの視点 長谷川眞理子
東京大学出版会
2015-05-28




進化心理学から考える

今から20万年前にアフリカでヒトが誕生し、10万年前から全世界へ拡散することに成功し、他の類人猿よりも繁栄することができました。成功の要因として重要なのは『共同作業』と『共同繁殖』であると言われています。

ヒトは『共同作業』を可能にするため多くの知識や技術を習得する必要があるので、一人前になるまでの子育てに要する期間と投資が膨大となってしまいました。そこでヒトは『共同繁殖』という戦略を選択するようになります。両親以外の血縁者や非血縁者の大勢が協力して子育てに携わることによって母親の負担を減らしました。

それによって、母親は共同作業や次の出産に専念することが可能になりました。ちなみに、人間に最も近い種であるチンパンジーの授乳期間は4年以上とヒトよりも長く、その間は母親がつきっきりになってしまって他のことに専念できなくなっています。

進化と人間行動
長谷川 寿一
東京大学出版会
2000-04





産後のメンタルヘルス

ほんの50年前から急激に進んだ核家族化によって、10万年前から脈々と続く『共同繁殖』という優れた戦略を放棄するようになり、そのシワ寄せは母親にふりかかっています。

母親が独りで子育てに取り組むと途端に「これでいいのだろうか」という不安感や「何か間違ったことをしてしまったのではないか」という罪悪感にさいなまれることになりがちです。

育児ノイローゼや産後うつ病には、このような事情が強く影を落としていると考えられます。特に、真面目な母親の方が罪悪感にとらわれてメンタルヘルスの問題を抱える傾向があります。先日、NHKでもとりあげられていましたNHKスペシャル “ママたちが非常事態!? ~最新科学で迫るニッポンの子育て~ ”

まして子どもに発達障害などの問題がある場合はもう大変で、親同士のネットワークをはじめ、教育・行政・医療が協力することが重要であると考えられます。


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