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2020年06月

ベンゾジアゼピン受容体作動薬に対する精神科医の見解を世代別にまとめてみた


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前回は安定剤・睡眠薬いわゆるベンゾジアゼピン受容体作動薬/BZ系薬についてまとめました。

今回は、BZ系薬について精神科医はどんな見解をもっているかたずねてみた時のことをふりかえってみます。精神科医のなかでも世代によってかなり意見が異なっていて興味深かったので、まとめてみました。


なお、ぼくがたまたま見聞きした話を少し脚色を加えてまとめているだけなので、話半分くらいで読んでいただければ幸いです。


70代開業医A先生の場合

もうかなりのおじいちゃんなのに、いつも夜遅くまで診療をがんばっていてエラいなあと思います。

そんなA先生は、BZ系薬は「依存性はない」と断言されていて、患者さんには説明なしでバシバシ処方しています。患者さんから「依存性が心配です」とたずねられても「そんなものはない!」とお怒り気味にお答えになるそうです。

「いやいやA先生、依存性はふつうにありますよ」って指摘しても不機嫌になってスネたりするので、それ以上あまりツッコめません。

医療の世界は知識がどんどんアップデートされていくので、油断していると今までの常識が非常識になってしまうことがあります。とくに精神科の開業医は目の前の仕事にいそがしくて勉強をしなくなるひとが多かったりするので、古い知識のまま診療を続けてしまうことがあります。

さらに、開業医は自分がトップなので、注意してくれるひとがまわりにいなくなるせいか、だんだん相互的なコミュニケーションがむつかしくなる傾向があったりするので(自戒をこめて)気をつけないといけません。

というわけで、知識不足のA先生は問題外として、、、


60代開業医B先生の場合

ちょっとだけ勉強熱心なB先生は、BZ系薬の依存性は小耳にはさんで知っていますが、それでもBZ系薬はガンガン使っているようです。その理由をたずねてみると、、、

「どうせ中止しても患者さんがほしがるから出さなあかん」
「出さんかったらもう来てくれへんかもしれんから不安やねん」

患者さんから依存性について問われると、「多少あるけど大丈夫だよ」って説明しているそうです。依存性などのリスクよりもメリットが大きいと考えているようです。

興味深かったのは、B先生ご自身もよくBZ系薬を服用していて、いつも大切に持ち歩いていることです。自分がやめられないのに、患者さんにやめてもらうことはまず無理でしょう。


40代開業医C先生の場合

C先生は博士号をもっているとても優秀な医師で、A先生やB先生よりもずっと若くして開業されています。

なので、C先生はBZ系薬の依存性やリスクを熟知していらっしゃいますが、BZ系薬はよく使っているそうです。理由は、患者さんが安定して通院できるようになるから、だそうです。

C先生が開業している場所は、高級住宅街の駅前でとても人気が高いエリアです。なんと、精神科クリニックが5軒も乱立して患者さんを奪い合っている超激戦区です。なので、なによりもまずは患者さんが定着することに重きを置いているのでしょう。

C先生は自分から率先して患者さんに対して依存性のリスクを説明することはありませんが、患者さんから問われたら「依存性はあるよ」と説明してあげるスタンスだそうです。

それってどうなの?というツッコミに対する回答がなかなか興味深くて、「BZ系薬は患者さんとの絆になる」ゆえに有用である、と。

たしかに、ニコチン・カフェイン・アルコール・ドラッグなどの依存性物質は嗜好品として人々の交流を促進する効果があったりするので、ある種のカルチャーには欠かせないものだったりします。なので、一見とても魅力的な回答に思えます。
Coffee&Cigarettes

しかし、自由診療ならともかく保険診療でそんなカルチャーを担う必要はないんじゃないかという気がします。


40代勤務医D先生の場合

公的機関に勤務されているD先生はとても優秀かつエキセントリックな医師です。

D先生は、患者さんに依存性のあるクスリを説明なしで処方するのは「ヤクの売人」と同じである、という過激なご意見をおもちです。なので、もちろんBZ系薬はほとんど処方しないというスタンスです。

忖度ゼロでストイックに発言されるので、ときには敬遠されたり、自閉スペクトラム症/ASDじゃないかとバカにされたり、営業妨害すんなと恨まれたりしているD先生ですが、基本的にすべて科学的根拠に基づいて発言するひとなので、医師としてはとても信頼できる方だと思います。

そもそも、科学的に正しいことを発言する医師がASDだとか異端児あつかいされてしまうのって、どうかなと思ったりします。


まとめ

無理矢理まとめてみると、A先生・B先生はとても優しい先生で、C先生はとても賢い先生ですが、D先生とは意見が真逆なので議論が平行線になってしまいます。それらを強引にまとめると、、、

まず、A先生やB先生が精神科医になった時代は、軽いうつ病やパニック症に対する治療薬はBZ系薬しか選択肢がありませんでした。現在は副作用の少ないクスリがたくさん開発されているので、BZ系薬以外の選択肢が豊富ですが、当時はとても副作用が強いクスリばかりだったので気軽に使えなかったことでしょう。

つまり、BZ系薬しか選択肢のなかった状況がずっと長く続いてしまったがために、選択肢が増えた現在でもBZ系薬を使い続けることはある意味仕方のないことかもしれません。

しかも、(リスクの説明なしに)BZ系薬を処方すれば患者さんにはとても喜ばれます。BZ系薬は即効性があるので、効果がわかりやすいし、苦痛を一挙にやわらげてくれる、とても頼りになる薬だからです。

さらに、BZ系薬は依存性物質なので、薬を媒介として患者さんと良い関係を築くことができます。定期的にコーヒーやタバコをふるまってくれるひとを悪く思うひとはいないでしょう。

それに、BZ系薬による成功体験が忘れられない精神科医って多いんじゃないかなと思います。たまたまうまくいった行動が普遍的に正しいことであると思い込んでしまう「迷信行動」って、医療の世界ではめちゃくちゃ多いんですよね。。。

D先生の「ヤクの売人」発言はなかなかインパクトがあります。A先生とB先生は単なる知識不足なので過失といえますが、故意にやっているC先生は当たらずも遠からずというところでしょうか。


BZ系薬の使い方

じゃあお前はどうなの?というわけで、ぼくのBZ系薬の使い方をまとめてみます。ぼくのクリニックに来る患者さんの実人数およそ600名のうち20名の方にはBZ系薬を処方しています。

BZ系薬を処方するケース

  • 長期間BZ系薬を服薬していて継続を希望するひと
  • 年に数回だけピンポイントで使うひと
基本的にBZ系薬を処方することはありませんが、前の医師から長期間にわたってBZ系薬を処方されているひとを引き継いだ場合、処方を継続することがあります。

まずは依存性と副作用について十分説明した上で、BZ系薬の減量および中止を提案してみます。そうすると、比較的病状が安定していて理解力のあるひとはほとんど減量および中止を希望されます。

BZ系薬を処方することはとてもカンタンなことなのですが、減らすことはけっこうコツとわかりやすい説明が必要です。

病状が不安定だったりして余裕のないひとで処方の変更を拒否される場合は、BZ系薬の処方を継続しています。あらためて病状が安定すれば減量を提案するようにしています。

長時間のフライトやプレゼンテーションなど、年に数回のイベントのときだけ服用するひとで、自己管理能力の高いひとには少量だけ処方することがあります。

BZ系薬を処方しないケース

  • 子ども
  • 認知症をもつひと
  • 自分の感情を自分でおさえられないひと
  • 職業ドライバーのひと
子どもはまだ脳の発達が未成熟なので、脳の働きを抑制しないほうがよいと考えています。

認知症の方や、自分の感情をおさえられない方は、BZ系薬を服用することで好ましくない状態になることが予想されるので、処方することはありません。

ドライバーの方が服用することはリスクが高すぎるので処方しません。

あと、おすすめできないのは、頭脳労働されているひとや、芸術活動やスポーツをされているひとです。

BZ系薬をやめることで仕事がはかどったり、作品がつくれるようになったり、スポーツの成績が上がるひとが多かったりするからです。

BZ系薬を大量に服薬しているときはとても頭の働きがにぶそうだったひとが、減薬するたびにどんどんシャープな印象になってきて、すばらしい作品をみせてくれて驚かされることがあります。

BZ系薬の作用を考えれば能力が低下するのは当然のことなのですが、あまり気づかれていなくて、もったいないひとがいるなあと思う今日この頃です。

コーヒー&シガレッツ(字幕版)
ジム・ジャームッシュ


安定剤や睡眠薬が脳に与える影響


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社会問題化する安定剤・睡眠薬

安定剤とか睡眠薬、いわゆるベンゾジアゼピン受容体作動薬/BZ系薬のことが最近なにかと話題になっています。

ざっくりまとめると、けっこう副作用が多くて依存性が強いリスクの高い薬であるにもかかわらず、めちゃくちゃ気軽に処方されているので注意が必要ですよ、という話題です。

先輩の小田陽彦先生(兵庫県立ひょうごこころの医療センター認知症疾患医療センター長)は、BZ系薬の弊害について警鐘を鳴らす急先鋒となってメディアに登場するようになりました。


この記事は、いささかセンセーショナルに不安をあおりすぎなところもありますが、内容は事実であることに間違いありません。

一方で、安定剤や睡眠薬は広く多くのひとに利用されています。年齢とともに使用率はあがっていって、高齢者の10人に1人以上が使用しているのが現状です。
睡眠薬の年齢別使用率
これほどまでに愛用されながら、これほどまでに恐れられている薬物って、いったい人間の脳にどんな影響を与えるのでしょうか。意外と知られていないようなので、まとめてみました。


脳の活動を抑制するGABA

BZ系薬を使用すると、脳内で情報の受け渡しをするGABAという物質の働きを高めます。

GABAといえばサプリメントなどで有名で、その効能はリラックスするだとかストレスを感じにくくするんだとかいろいろ宣伝されています。ちなみに、食品に含まれるGABAは脳へは移行しないのでそのような効果はありません。

BZ系薬は脳へ移行して影響を与えます。脳の活動を抑制することで、不安が少なくなったり、リラックスできるようになったり、筋肉がゆるんでほぐれたり、眠くなったりする作用をもたらします。

さて、その結果、ひとはどのような行動をとるようになるのでしょうか?


BZ系薬の行動薬理学的効果

薬物の作用を行動レベルで分析する行動薬理学的には、ベンゾジアゼピンには抗葛藤効果があるとされています。一般的には抗不安効果とも呼ばれています。葛藤や不安を軽くする効果があるということです。

BZ系薬の効果に関するおもしろい実験があります。図のように、弱いサル(M1)と強いサル(M2)を透明の仕切りを隔てて向かい合わせます。
ベンゾジアゼピンの行動薬理学的効果



弱いサルが手元にあるレバーを押すとエサがもらえますが、同時に強いサルに電気ショックを与えるシステムになっています。なので、弱いサルがレバーを押すと、強いサルはめちゃくちゃ怒って威嚇します。そうすると、透明の仕切りにへだてられいるとはいえ、弱いサルはビビってレバーを押さなくなってしまいます。

つまり、弱いサルはエサが欲しいんだけど、強いサルには怒られたくない、という葛藤/ジレンマにおちいってしまいます。

この状況で、弱いサルにBZ系薬を投与するとどうでしょう?これまであんなにビビっていた弱いサルが、強いサルが威嚇してもおかまいなしにレバーを押すようになって、エサにありつくことができるようになりました。

弱いサルにとってはラッキーですが、強いサルはたまったものではありません。


不安や葛藤がなくなるのは良いこと?

うつ病やパニック症になると、ちょっとしたことで落ち込んだり不安になったりして身動きがとれなくなって、生活の幅がせばまったりすることで、さまざまな不利益をこうむることがあります。

葛藤のなかでものごとを決断するのはとてもエネルギーが必要だからです。どっちにしようかなーという葛藤を抱えながら決断できずに何もできなくなって時間を浪費してしまいます。

そのような局面では、BZ系薬は助けになるかもしれません。しかし、別の局面を考えてみると、ものごとはそう単純じゃないことがわかります。

たとえば、大切な仕事の締め切りが迫っていて、どうしても終わらせないといけないのにも関わらず、目の前に様々な誘惑があってサボってしまいたいという、よくある葛藤。BZ系薬を使用したらどうなるでしょうか?間違いなく誘惑に負けてダラダラしてしまいます。

場合によっては、せっかくのチャンスを逃してしまうことになりかねません。ってゆーか、そもそも大切なときに脳の働きを抑制している場合ではありません。


自殺未遂とBZ系薬の関係

もうひとつ。たとえば、うつ病が悪化して死んでしまいたいと考えている場合。人生に絶望してもう死んでしまいたいんだけど、親に迷惑がかかるからやっぱりやめておこうかな、という葛藤を抱えて迷っているひとがBZ系薬を使用したらどうなるでしょうか?

自殺未遂をして救急外来に搬送されるひとのなかにはBZ系薬を常用しているひとが多い理由がコレだったりします。自殺を決意するまでにはそれぞれ様々な事情があるのでしょうが、BZ系薬やアルコールが「最後のひと押し」になっているケースはとても多かったりします。シラフではなかなか自殺未遂はできませんから。

葛藤を抱えることは、ひとが生きる上でとても大切なことだったりします。なので、安易に葛藤を取り除いてくれる薬剤を使用することは、けっこう恐ろしいことなのです。


やっちゃいけないことをやっちゃうクスリ

BZ系薬の大きな特徴は即効性があることです。不安やうつの薬は他にもありますが、即効性がなかったりします。なので、急場をしのぐためには便利な薬ではあるけれど、ダラダラと常用する薬ではありません。

基本的に、脳の活動を抑制する薬であるということは、頭の働きがにぶくなるクスリでもあるわけです。頭脳を駆使する仕事や勉強に専念しなければならないひとはもちろんのこと、真剣にスポーツをやっているひとは服薬を長期的に継続するべきではありません。また、服薬しながら運転することはとてもリスクが高いわけです。

それに、抗葛藤効果があるということは、とにかく「ま、いっか。」って感じで、やっちゃいけないことをやっちゃうクスリともいえるので、ちょっと注意が必要です。

※ただし、BZ系薬を長期間服用しているひとが急にやめてしまうと、とてもしんどい離脱症状が出ることがあります。減量および中止するにはコツがいりますので、自己判断でやめずに主治医に相談しましょう。

メンタルヘルスの問題で仕事を休んだひとが復職するときに大切なこと


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産業医をやっていると、メンタルヘルスの問題で休んでいるひとが復帰するときにいろいろ相談を受けることがあるので、よくあるパターンをまとめてみようと思います。


主治医の診断書は妥当か

まず、職場でうつになって休んでいるひとが復帰する場合、主治医が作成した復職可能の診断書を職場に提出します。

ただし、主治医が許可したらからといって、すぐ職場復帰になるわけではありません。主治医にはそんな権限はなくて、あくまでも職場側が復職できるかどうかを判定します。

そもそも、主治医は職場のことをほとんど知らないので判断ができません。しかも、医師はかなり特殊な世界で生活している人種なので、一般企業の事情にはうとかったりすることが多いわけです。

ぼく自身も、産業医としての活動を通して一般企業の常識をたくさん学ぶことができましたが、研修医のころは労働基準法すら全く理解していなくて、なんの疑問も抱かないまま完全に法令違反のブラック労働に従事していましたから。

それはさておき、復職の判断ができない微妙なケースは産業医が面談して復職が妥当かどうか意見を求められることがあります。


職場復帰をみとめられない場合

ここで、復職を許可できないケースは大きく分けて2つのパターンがあります。
  1. 治療がまだ不十分/医療マター
  2. 職場とのミスマッチ/労務管理マター

1.治療がまだ不十分/医療マター

まず、自宅にいても悪い状態が続いている場合。治療が不十分で、まだ仕事ができる状態ではありません。

1a 精神科治療が不十分

たとえば、
  • 仕事のことが気になって落ち着かない
  • 休んで申しわけないという気持ちにおしつぶされそう
  • もう職場に自分の居場所はないのではないかと不安でしかたがない
  • 薬を飲むと眠くなるので、やる気が出なくてとりあえず寝てる
いまだに精神症状が改善していない状態では仕事をしてもらうわけにはいきません。

さすがにこの状態で復職可能の診断書を作成する医師は少ないですが、次のパターンはけっこう多かったりします。

1b 生活指導が不十分

たとえば、仕事を休んでだいぶ気が楽になったけど、
  • 夜遅くまでYoutubeをみたりゲームをしている
  • 日中はずっとゴロゴロして過ごしている
  • 外出や運動はほとんどしていない
この場合は、主治医の治療方針を見直していただく必要があります。

せめて、
  • 規則正しい生活習慣
  • 十分な睡眠と適切な食事
  • 注意・集中力の維持
  • 適度な運動
勤務している時とおなじような生活スタイルと運動負荷くらいはできていないと、職場にいてもらうわけにはいきません。


2職場とのミスマッチ/労務管理マター

自宅にいると元気でいられるのに、出勤するとすぐに精神状態が悪化する場合。職場側がなんらかの手を打っておく必要があります。

2a 人間関係のミスマッチ
  • 上司/お局さんから目の敵にされていていじめられている
  • どうしても相性の悪いひとがいて同じ空間にいられない
  • 自分以外のみんなが仲良しなのでつらい

2b 業務と能力のミスマッチ
  • マジメで断れない性格なので仕事を大量に抱えすぎてしまう
  • 無能だと判断されて雑用しかまわってこない
  • 部下がついてきてくれない
この場合、配置換えや役職の変更、人間関係の調整などなど、柔軟な対応が必要になります。

また、労務管理マターで問題になるひとのなかには、しばしば背景として自閉スペクトラム症/ASDの特性をかかえているひとがいたりします。

ASDの特性は治療でなんとかなるから医療マターではないか、と考えて医療機関へ投げてくるひとが多いのですが、成人の発達障害は治療によってすぐに変化するものではないので、職場の協力が不可欠です。

現在は、障害があっても仕事ができるような環境を提供したり、職場の人間関係を調整していく配慮が求められています。いわゆる合理的配慮というやつで、根拠は障害者差別解消法(2016年4月施行)です。

ちなみに、べつにやらなくても罰則はありませんが、場合によっては不法行為として民事訴訟を起こされるリスクがあったりします。

それはさておき、実際の合理的配慮といえば、だいたい配置換えによって状況が好転するパターンが多かったりします。特に、人間関係はいったんこじれるとなかなかもとには戻りません。


そもそも職場は病院じゃない

とはいえ、障害と病気は別の概念です。障害には合理的配慮が必要ですが、職場には医師や看護師が常駐しているわけではありません。職場は病院ではなくて、健康なひとが仕事をする場所です。あたりまえのことなのですが、わりとごっちゃになっている昨今の状況があったりします。

これは最近、職場において合理的配慮とか安全配慮義務が強調されることが増えた影響があるかと思います。もちろん、職場はメンタルヘルスの問題が発生しやすい場所なので、対策を講じて予防することは重要なのですが、いったん病気になったひとをケアするリソースはありません。

つまり、合理的配慮や安全配慮義務は予防であって、治療やリハビリではありません。流れでいうと、職場/上流で予防するところで、不幸にも病気になってしまったら、病院/下流で治療をすることになります。
  • 上流/職場/病気にならないように予防する/労務管理マター
  • 下流/病院/病気になったひとを健康な状態まで回復させる/医療マター
優しくて熱心な医師に多いのですが、まだ治療が不十分であるにもかかわらず、時短勤務やリハビリ出勤を利用するべきであると主張して復職をせかすひとがいます。

これは本来主治医が負うべき責任を職場側に押しつけているようなものなので、いささか無理があります。なので、人事部が困ってよく相談にこられます。


あまりおすすめできないリハビリ出勤

経験的に、時短勤務や簡単な業務だけさせるリハビリ出勤のような中途半端な制度をつかっていると、どっちつかずの状態でズルズルと状況が悪化して、結局のところ復帰が遠のいてしまうケースが多かったりしてあまりおすすめではありません。

なので、せめてフルタイム勤務ができるまでは自宅療養を続けて、健康管理をしていただく必要があります。第一、自分で健康管理ができないひとに仕事をさせるのは、患者さんと職場双方にとってリスクが高すぎるからです。

それに、出勤しているのにもかかわらず、ひと並みに仕事を与えられなかったり、ひとりだけ先に帰らないといけない状態って、ひとによってはとてもつらいことだったりします。プライドがズタズタになったり、仲間から疎外されたと感じるようになったりして悩むこともあるわけです。

なので、本来の雇用契約にのっとった明確な線引きとか枠組みがある方が安心して働ける場合が多かったりします。

患者さんのために周囲のひとが一生懸命やった配慮こそが、逆に患者さんを苦しめる要因になっちゃってる構造って、精神科医療の領域ではよくあるんですよね。


医療福祉の視点/経営の視点

医療とか福祉のひとは、とにかく目の前にいる患者さんのためにできることを最大限やっていこうとするので、視野がせまくなって全体のことがみえなくなることがあります。

主治医が強引に復職させたひとの対応に疲れた上司が入れ替わりで精神科を受診するようになる、なんてことはめずらしくありません。

一方で、企業は事業をするためにひとが集まっている組織なので、働くひとに給与を支払うかわりにパフォーマンスを要求します。

医療福祉従事者の視点だけで考えると、どれだけ不健康なひとでも職場で受け入れられるべきだ、というかたよった主張になりがちで、経営側の考えと真っ向から対立してしまうことがあったりします。

医療福祉にも経営の視点が必要であるという話で紹介しましたが、これはとても重要です。というのも、医療福祉を優先するか vs 経営を優先するか、というゼロサムゲームの対立ではなくて、医療福祉によって働いているひとが健康を維持することは経営にとっても重要なことなので、本来はプラスサムゲームだからです。

休ませるべきひとはしっかり休ませて治療に専念していただいて回復を早めてもらう一方、職場側は必要な対策を講じてミスマッチのないように対策を講じていく努力をしていくことが大切だと思う今日このごろです。

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