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精神科クリニックを開業してそろそろ6年目になります。ときどき、冗談なのか本気なのか「お金もうけしたいだけだろ!?」って聞かれることがあったりします。ってゆーか、僕も勤務医をやっていたころ、開業医はカネの亡者だと思ってバカにしていました、すみません。。。

確かに、経営者にピンハネされなくなるぶん、勤務医よりも開業医は所得が増えますが、事業リスクを負ったり診療以外のめんどくさい仕事が増えたりするので、どっちもどっちじゃないかと思ったりします。

それはともかく、少しだけ誤解があるようなので、自分の考えをまとめつつ回答してみようと思います。


「経営」と「お金もうけ」は同じ?

一般的に、「経営」と「お金もうけ」は同じものであると考えられています。経営がうまくいけば利益があがるのは当然のことのように思われます。

なので、以下のように考えるひとが多数派になっています。
  • 経営とはお金もうけのことである。
  • 経営とは善意や社会貢献とは正反対のものである。
ゆえに
  • 企業は利益を追求して、お金もうけのために経営をしている。
  • 病院とか役所とかNPOには経営なんて必要なくて、善意で社会貢献をするべきだ。
となるわけですが、これは大きな誤解であるということを説明していきます。


そもそも「経営」とは 

まず、経営の目標は「お金もうけ」ではなくて、商品やサービスを提供することです。
  • パン屋さんはお客さんにパンを提供すること。
  • クリニックは患者さんに医療サービスを提供すること。
経営とは、商品なりサービスの質を高め、効率よく、滞りなく、幅広く、求めているひとに提供することです。経営者はそのために戦略を立てて意思決定を行います。なので、経営がうまくいけばおのずと社会貢献につながっていきます。

つまり、株式会社であれクリニックであれ役所であれ、経営の視点は必要不可欠だということです。

たとえば、粗悪な商品を売りつけておきながら、環境保護のために木を植えたり貧しい国の子どもたちを援助したりする社会貢献活動をアピールする企業は本末転倒なわけです。

本来は経営がうまくまわったことの結果であるはずの社会貢献が、善意をアピールするために強調されてしまい、肝心の経営がおろそかになっているのはよくある風景です。そのくらい善意や社会貢献のアピールはインパクトの強い広告になっていることに留意する必要があります。

また、経営の視点が欠けていて別のことに気をとられてしまうとサービスの提供が停滞してしまいます。たとえば、某役所の窓口はクレーマーを恐れているのでしょうか、過剰なまでに接遇に気を遣っていて、説明が長かったり確認事項が増えてしまっていて、ちょっとした手続きだけで気の遠くなるほど時間がかかってしまい、いつも待合室が混んでいてとても不便です。

ほとんどのひとは役所に高級レストランのようなサービスを求めていないので、塩対応でもいいのでサクサク手続きをすすめてくれたらいいのになと思います。


クリニックにおける経営の成果とは

というわけで、営利組織はもちろんのこと非営利組織にも経営が必要なのですが、経営の「成果」は若干異なっています。

会社における経営の成果は、良質な商品はサービスによって価値を提供し、お客さんを豊かにすることですが、クリニックにおける経営の成果とは何でしょうか?

シンプルに「できるだけ多くの患者さんが良い方向に変化すること」であると考えています。

なので、クリニックへのアクセスをよくして、なるべく多くの患者さんをお待たせすることなく、医療サービスを提供して、治療成果をあげていくために、環境を整えておくことが経営者に求められます。


精神科治療の現状維持バイアスは強力

しかし、精神疾患の治療期間は他の科よりも長くかかることがあるので、患者さんには「現状維持バイアス」がはたらきがちです。同じ状態でいることが長期間におよんで当たり前になると、未知なる変化が怖くなってしまいます。結果、あまりよろしくない状態であってもズルズル長期化してしまいがちです。

たとえば、最近とある精神科クリニックが閉院して転医してきた患者さんが多いのですが、10年間通院しているのにほとんど病状が改善していないパニック症のひとはザラにいます。

10年間なんの疑問も持たないまま、同じ薬(しかもあまり効果のないもの)をずーっと服薬し続けて、とくに治療方針がないまま2週間ごとにせっせと通院して主治医と世間話をしているだけだったりします。

そのようなケースに対して、明確な治療方針をたてて薬を変更すれば病状は改善するのですが、そのような提案をしても実際にはなかなかうまくいきません。強力な現状維持バイアスがはたらいているからです。パニック症のひとはただでさえ不安になりやすいので、そのような提案をすると怖がって拒否してしまいます。

研修医のころ、とある先輩から「精神科治療の極意は患者さんを治そうとしないことや!」ってドヤ顔で言われたことがありますが、それは積極的に治療をしようとすれば現状維持バイアスに抵抗されるという点においては一理あるのですが、開き直ってしまってもしかたがありません。

なので、ゆっくり時間をかけて正しい情報を紹介しつつ、地道に信頼関係をつくりながらチャンスをうかがわなければいけません。ざっくり、10年間の現状維持バイアスを修正して適切な治療に持ち込むには6ヶ月くらいかかったりします。


精神科クリニックでお金もうけをする方法

現状維持バイアスの問題によって、精神科クリニックは「経営」と「お金もうけ」が相容れなくなります。お金もうけだけを追求するのなら、経営の成果を求めなくてもよいので、患者さんと一緒に現状維持バイアスにどっぷりつかっていればいいわけです。

ついでに、ニコニコ愛想をふりまいて「患者に寄り添う医療」とかキレイゴトをならべておけばなおよしです。

そのほうが手間がかからないし、患者さんにも負担をかけることもなくリピーターになってくれるので効率よくお金もうけができたりします。

さらに、お金もうけの効率をあげようと思えば、初めての患者さんをあまり診察せずに待たせることが効果的です。

精神科の診療報酬は、初診が再診の2倍くらいなのですが、労力は10倍以上かかってしまいます。初めての患者さんは事前にたくさん情報を集めないといけないし、診断して治療方針たててそれを本人や家族にわかりやすく説明しないといけないので、なにかと手間がかかるわけです。

しかも、時間をかけて真剣に取り組めば、1回の診察で問題が解決することも少なくないので、リピーターになるとも限りません。

なので、お金もうけの観点からは初診の患者さんを診察することはとても効率が悪いので、なるべく後回しにして再診の患者さんを「治さないように」リピーターになってもらって通院させ続けることが重要だったりします。

ついでに、初診の枠をしぼれば「予約がとりにくい行列のできるクリニック」になるので、「バンドワゴン効果」というウレシイおまけまでついてきて一石二鳥です。

※バンドワゴン効果とは、「ある選択肢をすでに多くの人が選んでいる状態そのものが、その選択肢を選ぶ人を更に増やしていく心理効果」のことです。

経営の観点から考えると、再診の患者さんよりも初診の患者さんのほうが困っている度合いは断然高いことが多いので、優先して待たせることなく引き受けるべきだし、再診の患者さんは早く治療を進めて治療を終結させなくてはいけないのですが、そうするとお金もうけの効率は悪くなってしまいます。


じゃあ、あなたはどうなの?

というわけで、最後にぼくの考え方を紹介しておきます。ぼくはお金もうけは大好きなので「精神科クリニックでお金もうけをする方法」は開業したてのころはもちろん想定したのですが、めちゃくちゃ退屈そうなので耐えられそうにありませんでした。とてもつまらないし、やりがいもなくなるし、だいいちアタマが悪くなってしまいそうだからです。

むしろ、せっぱつまって飛び込んできた初診の患者さんや、ややこしい患者さんをあの手この手で試行錯誤しながら、変化する方向へもっていくことにやりがいを感じるタチなので、好奇心や経営の観点を大切にしていこうと思っていたりします。