ホモ・サピエンスのエピジェネティックな規制緩和
- カテゴリ:
- 進化心理学
一卵性双生児は意外と似ていない
遺伝子がまったく同じ(クローン)であるはずの一卵性の双子(きんさんぎんさん、おすぎとピーコ、工藤兄弟、ザ・たっち)は、似てはいるけれど同じ人間ではありません。おすぎとピーコは、1980年代にけっこう人気のあったタレントさんです。こうしてみると、あまり似ていません。
若い頃からけっこう似ていなかったようです。
おすぎは映画評論家で、顔が大きめです。
このような現象を分子レベルで説明する「エピジェネティクス」という言葉が近年注目されています。
エピジェネティクスとは
最近よく耳にする聞きなれない言葉です。ちょっとざっくり説明していきます。
まず、そもそもDNAという生物の設計図は確固たるものとしてあつかわれてきました。
DNA複製▶RNA転写▶タンパク質への翻訳▶形質発現というプロセスを経て表現されていく「セントラルドグマ説」が提唱され、それに基づいた研究が行われてきました。
ですが、先ほどみてきたように、一卵性双生児は遺伝子が全く同じにもかかわらず、弟だけ顔が大きかったり、兄だけ目の病気をわずらったりすることがあるわけです。
遺伝子がまったく同じ一卵性の双子やクローンといえども、実際にはそれぞれ違う性質をもった細胞の集まりなわけです。
ですが、先ほどみてきたように、一卵性双生児は遺伝子が全く同じにもかかわらず、弟だけ顔が大きかったり、兄だけ目の病気をわずらったりすることがあるわけです。
遺伝子がまったく同じ一卵性の双子やクローンといえども、実際にはそれぞれ違う性質をもった細胞の集まりなわけです。
遺伝子を取りまく周囲の状況を、タンパク質などの生体分子によって修飾つまり「お化粧」することで、遺伝子の発現パターンや細胞の性質を変えることができるわけです。
さらに、いったん確立した「お化粧」を子どもの細胞にも伝達できるようなシステムによって、持続可能にすることもできるようです。
つまり、細胞には遺伝子だけの性質に決定されることなく、遺伝子の発現パターンをいじって多様化する能力が備わっています。そのため、一卵性の双子が異なる性質をもつようになると考えられています。
このように、生まれた後から決定される遺伝的なシステムを「エピジェネティクス」と呼びます。
遺伝子って意外とダイナミックなものみたいです。
ネアンデルタール人が規制したもの
ヒトに最も近い人類であるネアンデルタール人のゲノム(遺伝情報の全体)を利用して、エピジェネティクスがどのように行われてきたのかを調べた興味深い研究があります。
エピジェネティクスのひとつとして重要な「DNAメチル化」のマッピングを復元することで、現代人/ホモ・サピエンスのマップと比較することができたという研究です。
その結果、ネアンデルタール人は現代人と違って、自閉症・統合失調症・アルツハイマー病などの精神疾患に関わる遺伝子のほとんどがDNAメチル化によって発現が停止されていることが判明しました。
その結果、ネアンデルタール人は現代人と違って、自閉症・統合失調症・アルツハイマー病などの精神疾患に関わる遺伝子のほとんどがDNAメチル化によって発現が停止されていることが判明しました。
ネアンデルタール人も精神疾患の遺伝子をもっていたんだけれど、その遺伝子のスイッチをOFFにして、活用することなく規制していたようです。
※研究対象のネアンデルタール個人にたまたま特有のものであった可能性もあるので、今後検証が必要なようです。
ホモ・サピエンスが規制緩和したもの
現代人/ホモ・サピエンスは、この精神疾患の遺伝子をスイッチONして大いに活用しているわけです。つまり規制緩和をしたようなものです。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、同時代に数万年ものあいだ共存していましたが、ネアンデルタール人は絶滅し、ホモ・サピエンスは繁栄しました。
両者の明暗を分けたのは、ホモ・サピエンスが認知能力を飛躍的に向上させていた可能性が指摘されています。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、同時代に数万年ものあいだ共存していましたが、ネアンデルタール人は絶滅し、ホモ・サピエンスは繁栄しました。
両者の明暗を分けたのは、ホモ・サピエンスが認知能力を飛躍的に向上させていた可能性が指摘されています。
ホモ・サピエンスはリミッターを解除して脳の機能を向上させたことによって、ネアンデルタール人よりも繁栄することができましたが、同時に精神疾患に悩まされるようになったのかもしれません。
つまり、ホモ・サピエンスの発展と精神疾患の発症リスクは諸刃の剣なのかもしれません(天才と統合失調症のチキンレース)。
規制緩和の功罪
規制緩和は、それまで守られてきた既得権益をなくすことで新規参入を増やし、消費者が自由な選択ができるようになることによって経済を活性化させる、という考え方で推進されます。
日本電信電話公社▶NTT、国鉄▶JR、労働者派遣・バス・介護福祉・医薬品販売・農業・電力などなど、さまざまな業界で規制緩和が行われてきました。
規制緩和によって競争が活発化することによって、技術革新や商品・サービスの開発が促進されて、商品・サービスの質が向上したり価格が低下したりと、歓迎すべきメリットがたくさんあります。
反面、競争が激しくなることで、安全面やコンプライアンスを犠牲にしてしまい、事故や不祥事が起こったりするリスクを抱え込んでしまいます。
リスク・マネジメントと精神科医療
事故や不祥事は、一時的に騒がれてもすぐに忘れ去られてしまうのが常で、規制緩和の流れは今後も少しずつ進んで後戻りしそうにありません。
現代人/ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人のように規制を受け入れたまま不自由に耐えることができない性質があるみたいです。
ともかく規制緩和以後の消費者は、選択の自由を手に入れた代わりに、リスクと責任を抱えこむことになりました。なので、自分自身で適切な情報を手に入れて、自分のアタマで考えて、判断しなくてはならなくなってきています。
というわけで、事故や不祥事を「あってはならないもの」として切り捨てて騒ぎ立てて忘れ去り、また同じ過ちを繰り返してしまうのではなく、「起こりうるもの」としてリスクを評価してマネージメントしていくことが重要になります。
そのような考え方は、精神科医療において学ぶべきところが多いと思う今日この頃です。