アーカイブ

2019年03月

高い開放性をディスプレイするには


カテゴリ:

高い開放性をディスプレイするには

前回の「高い開放性の魅力と代償」では、パーソナリティ特性「ビッグ・ファイブ」のうち「開放性」は、若者にとって魅力的な特性であり、人気者になるためにはなんとしてでも身につけておきたい特性であることを説明しました。

ですが残念なことに、気質は遺伝的な要素の大きい才能なので、みなに等しく与えられているわけではありません。

素質的に開放性が高くないひとが手っ取り早く人気者になるためには、なんらかの方法で「高い開放性を身につけている」というシグナルを発しなくてはなりません。

つまり、安上がりでそこそこ信用できる「高い開放性のバッジ」をディスプレイする必要があります。


開放性と寄生虫

アメリカの心理学者ジェフリー・ミラーの著書「消費資本主義!」にとても興味深いことが書かれていたので紹介します。

重大な病気をもたらす寄生虫が流行している地域では、住人の開放性や外向性が低くなることがあるそうです。

好奇心旺盛で社交的なひと、ビッグ・ファイブにおける開放性や外向性の高いひとは、新たな病原体と接触して感染するリスクを負うことになりやすいので、子孫を残す確率が減ってしまうからです。

第二次大戦後、予防接種が世界的に普及した恩恵を受けることになった最初の世代であるベビーブーマーたちは、開放性や外向性が高い傾向があるためヒッピー文化・人種間の寛容・国際主義・リベラル思想が浸透したことや、逆に1970年代末からのエイズや性感染症の流行に直面した世代に、排外主義や右傾化が進んでいることにも関連しているかもれない説があったりして興味深いところです。

もしかしたら世界の調和と自由を促進するのは国際連合ではなく、感染症対策やワクチンの普及に貢献している国境なき医師団やビル&メリンダ・ゲイツ財団なのかもしれないとジェフリー・ミラーは推察します。


開放性と自傷行為

tatoo
それはさておき。奇妙なことに、重大な病気をもたらす寄生虫が流行している地域において、しばしばタトゥーやピアスなど身体を傷つけて装飾をほどこす文化があったりします。

なにゆえ、あえて感染リスクに身をさらすような行為をしてしまうのか、とても理解に苦しむところです。

一方で、このような自傷行為による装飾は、神聖なものであり社会的ステータスの証になっていたりします。

考えられる自傷行為のメリットとしては、病原菌におかされて病気になったり傷口が化膿したり変形したりすることなくキレイに治っている姿、つまり免疫力が強靭であり健康な個体であることを、これ見よがしにアピールしている説があります。


自傷行為とメンタルヘルス

感染症の危険がない社会においても、メンタルヘルスの問題から自傷行為をしてしまうひとがいます。自傷行為は周囲の人々を動揺させて注目を集める効果があり、集団の中で際立った存在になることができます。一時期、ファッションとしてのリストカットが流行したのも、このような儀式的行為の名残りなのかもしれません。

とはいえ、自傷行為をするひとはメンタルヘルスの問題を抱えていて、ハイリスクな最終手段に頼らざるを得ないほど追いつめられているのでサポートが必要なことには変わりありません。


寄生虫感染からミーム感染へ

ジェフリー・ミラーは、現代社会において寄生虫による重い感染症の恐怖がなくなった代わりに、エキセントリックでサイケデリックな文化によるミーム感染の恐怖は健在しているのではないかという興味深い指摘をしています。

ミーム/meme/模倣素とは、論者によっていろんな定義がありますが、ざっくり説明してみます。遺伝子が物理的に生物学的情報を担うのに対して、ミームは文化的情報を担うもので、旋律・観念・キャッチフレーズ・ファッションなど、マネすることで人間の脳から脳へ伝播して文化・慣習・技能を形成したりします。

高い開放性のシグナルに信頼性をもたせるには、それなりのシグナリング・コストを払わなくてはなりません。なじみやすいポップでほっこりしたミームではなく、ギョッとして思わず眉をひそめるようなドぎついミームにさらされなくてはいけません。
tokyodandy
たとえば独断と偏見でリストアップしてみると、フェデリコ・フェリーニ、デヴィッド・リンチ、ダーレン・アロノフスキー、ポン・ジュノ、園子温、ニルヴァーナ、レディオヘッド、ビョーク、シガー・ロス、ゆらゆら帝国、電気グルーヴ、フジロック・フェスティバル、ドストエフスキー、カフカ、トマス・ピンチョン、三島由紀夫、寺山修司、筒井康隆、町田康、阿部和重、伊藤計劃、つげ義春、荒木飛呂彦、古谷実、望月峯太郎、花沢健吾、ヴィレッジ・ヴァンガード、フランシス・ベーコン、ジャック・ラカン、ジル・ドゥルーズ、ミシェル・フーコー、ジャック・デリダ。そして精神分析、精神病理学、精神分裂病→統合失調症。

高い開放性をディスプレイしてシグナルを発するためには、かつてタトゥーやピアスで伝染病のリスクに身体をさらすことで免疫系の強靭さをアピールしたように、ミーム感染のリスクに精神をさらすことでメンタルの強靭さをアピールしているのではないかと。

つまり、「こんなにヤバいモノを大量摂取しているのに健全な精神を保っているオレ、最強」なわけです。このへんのひねくれた思索がジェフリー・ミラーの真骨頂です。

というわけで、次回は開放性、クリエイティビティ、統合失調症の関係についてまとめてみたいと思います。

高い開放性の魅力と代償


カテゴリ:

パーソナリティモデル「ビッグ・ファイブ」より

前回はクロニンジャーの気質モデルを紹介しました。


パーソナリティのモデルとして有名な「ビッグファイブ」(5因子モデル)も遺伝要因が大きいとされています。
  • 開放性/openness 好奇心旺盛で遊び心がある。≒新奇追求
  • 誠実性/conscientiousness しっかり者で、だらしなくない。
  • 同調性/agreeableness 相手に合わせる、共感能力。
  • 外向性/extraversion 社交的なひと。報酬依存と関連。
  • 安定性/stability ストレスに影響されずに安定する。
5因子の高さはそれぞれ人間的魅力に関連しています。どの因子が魅力的に感じるかは、評価するひとの年齢や立場に関係しています。

開放性や外向性の高さは、若者にとって最も魅力的な特性であるといえるでしょう。歳をとるにつれて誠実性や同調性が重視されるようになっていきます。


主人公は中心気質

主人公は中心気質
伝統的な精神医学の気質論によると、開放性の高さは中心気質において顕著です。開放性の高い中心気質者が若者にとって魅力的である証拠は枚挙にいとまがありません。

たとえば、人気ある少年漫画の主人公は、ほとんど開放性が高い中心気質者です。
  • ドラゴンボールの孫悟空
  • ワンピースのモンキー・D・ルフィ
  • HUNTER×HUNTERのゴン=フリークス
  • 進撃の巨人のエレン・イェーガー(ちょっと屈折していますが)
みんな好奇心のカタマリです。そもそも主人公の開放性が高くないと物語が展開しないのでしょう。

ですが、「中心気質は破綻しやすいか」で書いたように、現代社会では中心気質は発達障害に通じる特性でありハンディキャップになりがちです。


中心気質というハンディキャップをもっていても、それを努力や仲間との協力によって乗り越えて活躍するからこそ、主人公の魅力がよりいっそう増すのかもしれません。


ストッティングというシグナリング・コスト

若いガゼルやスプリングボックは、天敵であるオオカミに襲われそうになった時に奇妙な行動をとります。すぐに逃げればいいのに、思いっきり真上にジャンプする「ストッティング」という行動です。
ストッティング
これではカンタンに天敵に見つかってしまい、逃げおくれる確率が高まってしまいます。「自分がオトリになって天敵をおびき寄せ、群れのなかの弱い個体を守るため」というロマンティックな説明があったようですが、逆に今では「こんなに高くジャンプできるくらい運動能力に自信アリだから追いかけてもムダだよ、他のヤツを狙ってね」というシグナルを発している説が有力です。

ストッティングという「ハンディキャップ」をあえて背負い「シグナリング・コスト」を一時的に支払うことでターゲットから外されるという利益を得ています。オオカミ側も効率よく犠牲者を選択することができるという利益を得ています。

つまり、ストッティングでシグナルを発するガゼルと、シグナルを受けとるオオカミは、win-winの情報伝達/コミュニケーションをとっていることになります。

たとえば、難関大学卒業というシグナリング・コストを支払った就活生と企業の採用担当者の関係などなど、いろいろ説明できそうです。


ピート・タウンゼントはなぜ高く跳ぶのか

シグナルは単なる情報伝達ではなく操作できるものなので、これを逆手にとって戦略的に利用する個体がいもおかしくありません。

たとえばこのパフォーマンス。
whoストッティング
僕の尊敬するロックバンド「The who」のギタリストであるピート・タウンゼントはその演奏能力もさることながら、演奏しながら飛び跳ねたりギターを破壊したりと、破天荒なステージ・パフォーマンスに定評があります。

まじめな話、跳躍すると演奏しにくくなるので多大なコストを支払っているわけです。そのおかげで、このパフォーマンスは計り知れない視覚効果を生み出して、最高にカッコいいというシグナルは発するわけです。




楽器の弾けないミュージシャン

極端な話、楽器が弾けなくてもエキセントリックなパフォーマンスだけで存在を確立してしまうミュージシャンだっているわけです。これまた僕が尊敬してやまない「電気グルーヴ」のピエール瀧そのひとです。



若い頃ならまだしも、中高年になってもなおその高い開放性を維持することは、とても大きな重圧があったことでしょう。

今回の逮捕はとても残念でショックでしたが、過去の素晴らしい作品を発売停止にしないでほしいと願っています。また、もし薬物依存の状態であるなら回復を陰ながら応援していきたいと思います。

VOXXX
電気グルーヴ
2000-02-02


次回は、高い開放性をディスプレイするには、どのような方法があるか、まとめていきます。


新奇追求、統合失調症、ドーパミン


カテゴリ:

クロニンジャーの気質モデル

「性格」は後天的につくられる行動傾向のこと、「気質」とは生まれながらの行動傾向のことです。

クロニンジャーというアメリカの精神医学者がみつけた気質モデルのうち、神経システムに対応するものが3つあることが知られていて、それぞれ遺伝しやすいことがみとめられるようになっています。
  • 新奇追求
  • 損害回避
  • 報酬依存


    新奇追求


新奇追求/新しもの好き

新しかったり珍しかったりする刺激に対して興奮しやすく、それを追い求めるためにリスクをかえりみず衝動的に意思決定する性質で、ドーパミン神経システムと関係しています。

損害回避/損したくない

悪いことが起こるのではないかという予測に対して、それを避けてリスクをとらないよう慎重に用心深く意思決定する性質で、セロトニン神経システムと関係しています。

報酬依存/ほめられたい

義理堅く情に厚く、他者から喜ばれたり褒められたりすることで、良い人間関係を保つことを重視して意思決定する性質で、ノルアドレナリン神経システムと関係しています。


新奇追求と損害回避は相反する性質で両立は難しそうです。報酬依存はそれぞれと両立することができます。また、新奇追求/損害回避はより原始的な性質で、報酬依存はより社会的な性質を帯びているといえます。


伝統的な精神医学の気質分類との対応関係

伝統的な精神医学にある気質との対応関係はどうなっているでしょう。


新奇追求損害回避報酬依存
中心
循環
分裂

参考記事


  • 中心気質 新奇追求が高くて、損害回避が低く、報酬依存には無頓着。
  • 循環気質 損害回避と報酬依存を重視して、新奇追求には慎重。
  • 分裂気質 報酬依存には無頓着で、損害回避はそこそこで、新奇追求は???
中心形質と循環気質は明確な対応関係がありますが、分裂気質は少し複雑なようです。


分裂気質/統合失調症と新奇追求

分裂気質は統合失調症の病前性格とされています。一方で、統合失調症は新奇追求に関与するドーパミン神経システムの不具合によるものであるとされています。

このへんの対応関係はどうなっているのでしょうか?

統合失調症がまさに発症する「急性期」について。記憶力と表現力が豊かな患者さんは、自分が発症するときの様子をつぶさに説明してくれることがあります。

とても怖い体験をされたひとがいる一方で、とても魅力的で感動的な体験をしたというひとがたまにいらっしゃいます。まるで新奇追求性が一挙に高まっているかのように。

たとえば、かつて中井久夫は今まさに統合失調症が発症していく瞬間をロマンティックに描写しました。
身体が全く鳴りを潜め、この奇妙な静けさを背景とする知覚過敏(外界のこの世ならぬ美しさ、深さ、色の強さ)、特に聴覚過敏、超限的記憶力増大感(読んだ本の内容が表紙を見ただけでほとんど全面的に想起できる確実感)と共に、抵抗を全く伴わず、しかも能動感を全く欠いた思路の無限延長、無限分岐、彷徨とを特徴とする一時期がある。
これはつまりドーパミン神経システムが過剰に作動して新奇追求性が高まった状態に他なりません。

「急性期」の病状が落ち着いて「消耗期」と呼ばれる段階になると、逆に新奇追求性が乏しくなり損害回避性が高まっているようにみえます。

このように、統合失調症は病気のステージによってドーパミン神経システムのバランスが変動する特徴があります。

急性期はすぐに終わってしまうので、どうしても消耗期から回復期にいる患者さんの割合が多くなります。なので、一般的には統合失調症/分裂気質と新奇追求はあまり関連がないように思われていたりしますが、実はとても関連が深かったりするわけです。


ドーパミンの高まり/統合失調症・恋愛・コカイン

ドーパミンは、脳の奥深くにある原始的な爬虫類レベルの脳部位「腹側被蓋野/VTA」からA10神経を経由して脳のあちこちにばらまかれます。
VTA
それによって主に活性化される脳の機能は
  • 欲望/Wanting
  • 動機/Motivation
  • 集中/Focus
などなど。生きる上でとても大切な根本的な機能であり、新奇追求に密接に関わっています。

ドーパミン神経システムは、統合失調症の急性期以外にも、激しい恋愛のさなかや、コカインを摂取している時に活発化することが知られています。

これはいずれも非合理的な事態であり、しばしば「狂気」と呼ばれたりします。

合理的な動物であるハズのヒトが、
古今東西、好むと好まざるとにかかわらず、非合理的な「狂気」にあこがれを抱かずにはいられませんでした。

それは一体なぜなのか。

奇抜なパフォーマンスをするミュージシャンや、狂気をロマンティックに記述する精神科医にあこがれを抱いていた若かりし頃を思い出しながら、これから少しずつ考えていきたいと思います。

このページのトップヘ

見出し画像
×