子育て神話から自由になるための進化心理学
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- 進化心理学
当クリニックの児童思春期外来を受診する子どもの母親について、みなさんが強い罪悪感を抱いていることについて書きました。
相変わらず、強い罪悪感を抱いてしまっている母親が多いこともあって、これについてもう少し掘り下げてみることにしました。
母子関係という神話
3歳までは母親が1日中つきっきりで育てた方がよいという、かの有名な3歳児神話。親子関係、とくに母子関係、それも母子一体から母子分離のプロセスについて、児童精神分析・児童発達心理・児童精神医学は驚くべき執念で細部まで記述しようとしてきました。
実際に子育てをしてみるとよくわかるのですが、なかにはトンデモな記述もけっこうあって、そもそもなんでそこまで鼻息荒く必死なのか不思議なところです。。。
実際に子育てをしてみるとよくわかるのですが、なかにはトンデモな記述もけっこうあって、そもそもなんでそこまで鼻息荒く必死なのか不思議なところです。。。
これにはわけがあって、第二次世界大戦中に疎開で親子が離れ離れになった経験とか、児童福祉医療施設がたくさんつくられるようになったことなどから、戦後ファミリー・ロマンスが流行したことが、その源流になっていたりするそうです。
ロマンティックな神話の弊害
もちろん、現実はそんなにロマンティックではありません。母と子のロマンティックな神話は、かなり根強くオトナたちの思考を規定しています。
子どもがすくすくと問題なく育てばよいのですが、不幸にも子どもに問題が発生してしまうと全て親の責任になってしまいます。特に母親が多方面から批判されて罪悪感を抱くことになります。
子どもがすくすくと問題なく育てばよいのですが、不幸にも子どもに問題が発生してしまうと全て親の責任になってしまいます。特に母親が多方面から批判されて罪悪感を抱くことになります。
経済的にも時間的にも余裕があって、近隣に助けてくれるオトナがたくさんいる母親はまだしも、核家族で頼れる親類が近くにいなかったり、夫の帰りが遅かったりすると途端に厳しい状況になります。ましてや、母子家庭とかほとんど無謀で、そんな状況で立派に子育てできている母親のマネージメント能力は驚異的であるとしか言いようがありません。
何よりも母子関係というロマンティックな神話から自由になることが罪悪感を軽減させることにつながると思います。そのためには別の考え方の枠組みが必要になります。最近読んだ本にヒントがありました。
進化心理学から考える
今から20万年前にアフリカでヒトが誕生し、10万年前から全世界へ拡散することに成功し、他の類人猿よりも繁栄することができました。成功の要因として重要なのは『共同作業』と『共同繁殖』であると言われています。
ヒトは『共同作業』を可能にするため多くの知識や技術を習得する必要があるので、一人前になるまでの子育てに要する期間と投資が膨大となってしまいました。そこでヒトは『共同繁殖』という戦略を選択するようになります。両親以外の血縁者や非血縁者の大勢が協力して子育てに携わることによって母親の負担を減らしました。
それによって、母親は共同作業や次の出産に専念することが可能になりました。ちなみに、人間に最も近い種であるチンパンジーの授乳期間は4年以上とヒトよりも長く、その間は母親がつきっきりになってしまって他のことに専念できなくなっています。
産後のメンタルヘルス
ほんの50年前から急激に進んだ核家族化によって、10万年前から脈々と続く『共同繁殖』という優れた戦略を放棄するようになり、そのシワ寄せは母親にふりかかっています。
母親が独りで子育てに取り組むと途端に「これでいいのだろうか」という不安感や「何か間違ったことをしてしまったのではないか」という罪悪感にさいなまれることになりがちです。
育児ノイローゼや産後うつ病には、このような事情が強く影を落としていると考えられます。特に、真面目な母親の方が罪悪感にとらわれてメンタルヘルスの問題を抱える傾向があります。先日、NHKでもとりあげられていました(NHKスペシャル “ママたちが非常事態!? ~最新科学で迫るニッポンの子育て~ ”)。
母親が独りで子育てに取り組むと途端に「これでいいのだろうか」という不安感や「何か間違ったことをしてしまったのではないか」という罪悪感にさいなまれることになりがちです。
育児ノイローゼや産後うつ病には、このような事情が強く影を落としていると考えられます。特に、真面目な母親の方が罪悪感にとらわれてメンタルヘルスの問題を抱える傾向があります。先日、NHKでもとりあげられていました(NHKスペシャル “ママたちが非常事態!? ~最新科学で迫るニッポンの子育て~ ”)。
まして子どもに発達障害などの問題がある場合はもう大変で、親同士のネットワークをはじめ、教育・行政・医療が協力することが重要であると考えられます。