精神科の薬を飲みたくないのはなぜ?
いくら 精神科クリニックの敷居が低くなってきているとはいえ、精神科の薬(向精神薬)を飲むのを嫌がるひとは多数派でしょう。また、精神科医のなかにも、軽い症状の患者さんに対して向精神薬を安易に処方することに慎重なひとがいます。
向精神薬につきまとうなんとなくの「嫌な感じ」は感覚的にはわかるのですが、はっきりと言語化されていないようなので、ぼくなりにまとめていこうと思います。
明らかに重い精神症状があって生活に困っているひとは迷うことなく向精神薬を使うでしょう。問題なのは、精神症状が軽くてそれほど生活に困っているわけではないけど、向精神薬を使うことによって現状をよりよく向上(エンハンスメント)させることができるのではないか、と考える微妙なラインに立っているひとたちです。
明らかに重い精神症状があって生活に困っているひとは迷うことなく向精神薬を使うでしょう。問題なのは、精神症状が軽くてそれほど生活に困っているわけではないけど、向精神薬を使うことによって現状をよりよく向上(エンハンスメント)させることができるのではないか、と考える微妙なラインに立っているひとたちです。

ニューロ・エンハンスメント/NE
医療におけるエンハンスメントとは、健康のためとか病気の治療/トリートメントではなく、人間の性能を増幅させるために行う処置のことです。たとえば、美容整形とかアンチエイジング、スポーツ選手のドーピングなどなど。
精神科領域におけるエンハンスメントはニューロ・エンハンスメント/NEと呼ばれています。認知や感情の機能を強化することを目的に向精神薬を使用することです。
前回ふれたベンゾジアゼピン受容体作動薬は脳の働きをにぶくする作用がありますが、その逆というわけです。
たとえば、抗うつ薬を飲むとパニック症やうつ病が改善するだけでなく、社交的になったり、楽天的かつ積極的になったり、キツイ状況のなかでもあきらめずに努力できるようになったりと、感情面を強化する作用があります。
一方、ADHD治療薬は集中力を高めて苦手な課題に取り組めるようになったり、認知機能を向上させる作用があるとされています。ちなみに、医師国家試験の勉強をするためにメチルフェニデートを服用してガンガン徹夜して乗り切ったひとを何人か知っています。
精神疾患の軽症化、拡大と浸透
治療環境の進歩や情報の流通などのおかげなのかわかりませんが、精神疾患はどんどん症状が軽くなって裾野がひろがってカジュアルになって社会に浸透しています。その結果、正常と病気の区別がどんどん曖昧になっています。なので、それまで薬物療法の対象にならないひとがどんどん薬物療法の対象になっています。つまり、向精神薬を使用する理由が、治療のためなのか、NEのためなのか、線引きがよくわからなくなっているわけです。
なかでもとくに曖昧なものが、
- 不安やうつになりやすい性質
- 衝動性や不注意になりやすい性質
つまり、パニック症・うつ病と注意欠如多動症/ADHDです。抗うつ薬とADHD治療薬は巨大な市場を生み出しているヒット商品です。
ひとは誰しも不安になったり、気分が落ち込んだり、衝動的になったり、うっかりミスをしてしまうものなので、疾患との線引きが客観的に難しいところを狙うのが向精神薬のヒット商品を生み出すコツでもあるわけです。
このような状況のなかで向精神薬によるNEを積極的に求めるひとと嫌がるひとはどのような背景があるのでしょうか。
このような状況のなかで向精神薬によるNEを積極的に求めるひとと嫌がるひとはどのような背景があるのでしょうか。
ふたつの世界観/宗教・保守 vs 科学・革新
世の中には大きく分けてふたつの世界観があります。
A 人間は母なる自然から生まれた存在であり、自然の恵みに感謝すべき
▶ NE反対/ありのままの自分を受け入れよう
B 人間は科学技術によって、環境や自分自身を変化させて発展すべき
▶ NE賛成/理想にむかって自分を変化させよう
Aは宗教的で保守的な世界観、Bは科学的で革新的な世界観で、向精神薬によるNEについては、Aのひとは反対、Bのひとは賛成する傾向があるといえるでしょう。
Aの世界観をもつひとは向精神薬を使いたがらない傾向があるし、Bの世界観をもつひとは向精神薬を積極的に使ってNEしていくことでしょう。
それぞれの考え方にはメリット・デメリットがあります。
A 宗教・保守
メリット わかりやすい よりどころになる 安定する
デメリット 進歩がない 変化にとり残される
B 科学・革新
メリット 進歩する 可能性が広がる 夢がある
デメリット 不安定 誤った方向へ進む
どちらか片方へ極端に突っ走るひともいれば、うまいことバランスをとれるひともいることでしょう。若いころはBの傾向が強くて、歳をとるにつれてAの傾向が強まるひとが多いのではないでしょうか。
というわけで次回からは、Aの世界観が強すぎる場合、Bの世界観が強すぎる場合、それぞれの弊害についてまとめていきたいと思います。
コメント
コメント一覧 (8)
医師からは薬の副作用について説明が無かったのですが、精神科のお医者様は副作用について余り深刻に考えていらっしゃらないのでしょうか。
自分の症状をameba ブログ「靴が原因で体が歪む」
https://ameblo.jp/aikyo-fukuko/entry-12278279539.html
に書いていますが、医師からは体が歪むなんて宗教や迷信だと言われてしまいます(^-^;
またameba ブログ「精神科医こてつ名誉院長のブログ」では、精神病を栄養指導で完治された事例も記載されているのですが、このブログの感想を記事にして頂けませんか。
すずろ
が
しました
体が歪むと感じるのはセネストパチー、こてつ医師は呪術師という見解に、そんな風に思われるんだと驚きました。このご意見を私のブログで紹介させて頂いても宜しいでしょうか。
私は柔軟体操で治そうと頑張っていますが、痛いばかりで完治までの道のりは程遠いです。
服薬で改善するのなら、それほど安易な近道はないと感じますが、魔法の薬が存在するとは思えません。
精神医療と呪術の関係を記事にして下さるとの事ですが、こてつ医師の治療例について具体的に書いて頂けると、呪術だという意見を理解出来るかも知れません。
すずろ
が
しました
セネストパチーの例として紹介するとしても「靴が原因で体が歪む」という一文を、患者が信じて疑ってないという理由で、添えて頂けないでしょうか。
医療ではなく呪術で治しているのなら確かに凄いですね。
医療法については判らないのですが、違犯しているのならameba に通報すべきかも。
テレビの健康番組でも、症例を具体的に説明していますが、それとは違うのですかね。
すずろ
が
しました
先生は、先生が「精神疾患」と診断された「相談者」さんの心身不調を医薬品によって次々と治せているんですか?
すずろ
が
しました