新奇追求、統合失調症、ドーパミン
クロニンジャーの気質モデル
「性格」は後天的につくられる行動傾向のこと、「気質」とは生まれながらの行動傾向のことです。
クロニンジャーというアメリカの精神医学者がみつけた気質モデルのうち、神経システムに対応するものが3つあることが知られていて、それぞれ遺伝しやすいことがみとめられるようになっています。
クロニンジャーというアメリカの精神医学者がみつけた気質モデルのうち、神経システムに対応するものが3つあることが知られていて、それぞれ遺伝しやすいことがみとめられるようになっています。
- 新奇追求
- 損害回避
- 報酬依存
新奇追求/新しもの好き
新しかったり珍しかったりする刺激に対して興奮しやすく、それを追い求めるためにリスクをかえりみず衝動的に意思決定する性質で、ドーパミン神経システムと関係しています。
損害回避/損したくない
悪いことが起こるのではないかという予測に対して、それを避けてリスクをとらないよう慎重に用心深く意思決定する性質で、セロトニン神経システムと関係しています。
報酬依存/ほめられたい
義理堅く情に厚く、他者から喜ばれたり褒められたりすることで、良い人間関係を保つことを重視して意思決定する性質で、ノルアドレナリン神経システムと関係しています。
新奇追求と損害回避は相反する性質で両立は難しそうです。報酬依存はそれぞれと両立することができます。また、新奇追求/損害回避はより原始的な性質で、報酬依存はより社会的な性質を帯びているといえます。
伝統的な精神医学の気質分類との対応関係
伝統的な精神医学にある気質との対応関係はどうなっているでしょう。
新奇追求 | 損害回避 | 報酬依存 | |
中心 | ◯ | ✕ | ✕ |
循環 | ✕ | ◯ | ◯ |
分裂 | ? | ◯ | ✕ |
参考記事
- 中心気質 新奇追求が高くて、損害回避が低く、報酬依存には無頓着。
- 循環気質 損害回避と報酬依存を重視して、新奇追求には慎重。
- 分裂気質 報酬依存には無頓着で、損害回避はそこそこで、新奇追求は???
中心形質と循環気質は明確な対応関係がありますが、分裂気質は少し複雑なようです。
分裂気質/統合失調症と新奇追求
分裂気質は統合失調症の病前性格とされています。一方で、統合失調症は新奇追求に関与するドーパミン神経システムの不具合によるものであるとされています。
このへんの対応関係はどうなっているのでしょうか?
統合失調症がまさに発症する「急性期」について。記憶力と表現力が豊かな患者さんは、自分が発症するときの様子をつぶさに説明してくれることがあります。
とても怖い体験をされたひとがいる一方で、とても魅力的で感動的な体験をしたというひとがたまにいらっしゃいます。まるで新奇追求性が一挙に高まっているかのように。
たとえば、かつて中井久夫は今まさに統合失調症が発症していく瞬間をロマンティックに描写しました。
身体が全く鳴りを潜め、この奇妙な静けさを背景とする知覚過敏(外界のこの世ならぬ美しさ、深さ、色の強さ)、特に聴覚過敏、超限的記憶力増大感(読んだ本の内容が表紙を見ただけでほとんど全面的に想起できる確実感)と共に、抵抗を全く伴わず、しかも能動感を全く欠いた思路の無限延長、無限分岐、彷徨とを特徴とする一時期がある。中井久夫「分裂病の発病過程とその転導」
これはつまりドーパミン神経システムが過剰に作動して新奇追求性が高まった状態に他なりません。
「急性期」の病状が落ち着いて「消耗期」と呼ばれる段階になると、逆に新奇追求性が乏しくなり損害回避性が高まっているようにみえます。
このように、統合失調症は病気のステージによってドーパミン神経システムのバランスが変動する特徴があります。
急性期はすぐに終わってしまうので、どうしても消耗期から回復期にいる患者さんの割合が多くなります。なので、一般的には統合失調症/分裂気質と新奇追求はあまり関連がないように思われていたりしますが、実はとても関連が深かったりするわけです。
ドーパミンの高まり/統合失調症・恋愛・コカイン
ドーパミンは、脳の奥深くにある原始的な爬虫類レベルの脳部位「腹側被蓋野/VTA」からA10神経を経由して脳のあちこちにばらまかれます。
それによって主に活性化される脳の機能は
- 欲望/Wanting
- 動機/Motivation
- 集中/Focus
などなど。生きる上でとても大切な根本的な機能であり、新奇追求に密接に関わっています。
ドーパミン神経システムは、統合失調症の急性期以外にも、激しい恋愛のさなかや、コカインを摂取している時に活発化することが知られています。
これはいずれも非合理的な事態であり、しばしば「狂気」と呼ばれたりします。
合理的な動物であるハズのヒトが、古今東西、好むと好まざるとにかかわらず、非合理的な「狂気」にあこがれを抱かずにはいられませんでした。
それは一体なぜなのか。
奇抜なパフォーマンスをするミュージシャンや、狂気をロマンティックに記述する精神科医にあこがれを抱いていた若かりし頃を思い出しながら、これから少しずつ考えていきたいと思います。
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