タグ

タグ:東浩紀

共感の起源としての群れ/共感を媒介するオキシトシン



カテゴリ:

前回は「ふたつの共感」についてまとめました。
今回は共感の起源とオキシトシンとの関係をまとめてみました。


共感の起源

flock-of-birds-350290_1280
群れのメンバーが近接した距離で共存し,安定して群れの移動が維持されるためには行動を同調させる必要がある。
この論文によると、動物における群れの機能が共感の起源と関連しているのではないか、と考えられています。

群れをつくるために、まずはメンバー間が行動を同調させることが必要になります。リズムや周期のある行動の同期化は、ゲンジボタルや魚の群れにもすでに認められています。

これは原初的な情動的共感(EE)と言えるかもしれません。

哺乳類では、相手の意図や行動の意味を予測する能力が備わることによって、行動・注意・情動の変化を相手と一致させ、他者の視点を獲得できる素地ができるようになります。

この時点で認知的共感(CE)まであと少しで到達できそうです。


群れから社会へ

群れの形成は集団の安定と発展のみならず、個体の生存と適応度を上昇させて、社会的な緩衝作用や弱者保護の概念をもたらします。

今からおよそ250年前に哲学者ジャン=ジャック・ルソーは共感のひとつである「憐れみ」について独特な考え方をしていたことが東浩紀の著作によって紹介されています。
人間は「憐れみ」のゆえに、幸せな孤独を捨てて群れて生きてしまう。そしてこの「憐れみ」は、決して人間独特のものではない。それは理性や反省から離れたもので、一部の動物たちにも備わる能力である
人間は、まさにその「獣」に近い能力によってこそ社会を作って自分たちを守ることができたというのが、ルソーの主張なのである


通常、「憐れみ」はプライベートな感情であると考えられています。しかし、ルソーは「憐れみ」はパブリックな営みであり「憐れみ」こそがひとを結びつけて社会をつくると考えました。

人間の理性が社会をつくると考える一般論とは逆に、動物的な共感こそが社会をつくる基盤であることをルソーが見出していたことはとても示唆に富みます。


共感を媒介するオキシトシン

オキシトシンはギリシャ語で「すばやい出産」という意味で、産婦人科領域で陣痛促進剤として知られている、神経系や血液を介してシグナルを伝達する物質です。

その後、小動物では愛着行動を促進する作用があることがわかり、社会的シグナルの認知や養育行動の発現を促進すると考えられました。つまり、共感を媒介する物質と言えるでしょう。


自閉スペクトラム症(ASD)ではオキシトシンの伝達に異常があることが指摘されているため、オキシトシンはASDの治療薬になるのではないかと考えられています。
東京大学医学部附属病院 精神神経科 山末英典准教授らは自閉スペクトラム症と診断がつく20名の成人男性を対象にランダム化二重盲検試験を探索的に行い、オキシトシン経鼻剤の6週間連続投与によって対人相互作用の障害と呼ばれる自閉スペクトラム症の中核症状が改善することを発見しました。

哺乳類の母仔間において、仔の鳴き声や吸乳行動は母のオキシトシン分泌を促進して、母性行動を高めます。さらに、母性行動を受けた仔もオキシトシン分泌が促進されて身体的な接触を求めるようになって以下繰り返し、という連鎖反応が起こって正のループを形成します。

双方から発せられる感覚的なシグナルのやりとりがオキシトシンによって促進されることによって、情動伝染・警戒の伝搬・移動の同期化が可能になり、群れの運営が可能になります。

ヒトはこのプロセスをアイコンタクトのみで達成できるように進化しました。また、ヒトと収斂進化したイヌは(チンパンジーやオオカミと違って)この能力を獲得しているとされています。

オキシトシンを投与されたイヌは飼い主を見つめるようになり、見つめられた飼い主はオキシトシン分泌が高まり、正のループが形成されます。

つまり、ヒト同士はもちろん、ヒトとイヌの間でもオキシトシンによる正のループが起こるわけです。


共感の拡張性は?

というわけで、オキシトシンが媒介する共感はめでたく種の壁を越えました。人間は母子間だけでなくアカの他人からペットの犬にいたるまで、共感によって社会を拡張させることができます。

それならば無生物、たとえばロボットならどうなのか、という疑問が湧いてくるわけで、次回は人工的な共感が可能かについて調べてみたいと思います。


直立二足歩行からの観光、サルコペニアについて。



カテゴリ:

Migraciones_humanas_en_haplogrupos_de_ADN-Y

ホモ・サピエンスの拡散速度

最近、人類史に興味があって読書に励んでいるんですけど、ホモ・サピエンスの何がスゴイって、その移動速度なんですよね。アフリカで誕生してからめちゃくちゃ短期間で全世界に拡散したわけです。

もちろん、当時は乗り物なんてないわけで、歩いて全世界を踏破したわけです。つまり、ホモ・サピエンスの移動能力が優秀だったからこそ、驚異的な速度で全世界に拡散できたわけです。

ホモ・サピエンスは他の動物と比べて身体能力が劣るため知能を発達させた云々と言われていますが、こと移動する能力に関しては、他の動物を圧倒的に凌駕しています。短距離走はともかく、長距離走にかけてはホモ・サピエンスにかなう動物はいないそうです。

それを可能にしたのは、直立二足歩行です。

人体六〇〇万年史 上──科学が明かす進化・健康・疾病 (早川書房)
ダニエル E リーバーマン
早川書房
2015-09-30






直立二足歩行という革新

直立二足歩行によって手を自由に使えるようになったり巨大な脳を支えることができるようになったりなどの効果は副次的です。直立二足歩行のなにがスゴイって、消費エネルギーを1/4にできてしまうのです。これは圧倒的なイノベーションと言えます。

加えて、ホモ・サピエンスは毛皮をまとうことをやめた代わりに、数百万個もの汗腺を全身にまといました。これは強力な冷却ファンを搭載しているようなものなので、運動によるオーバーヒートを防ぎつつ、長距離移動を可能にすることができるようになりました。

これによって、素早く逃げる獲物に対して持久戦をしかけて狩猟を行うという戦略が可能となり、世界中を移動する狩猟採集民として繁栄を謳歌することができるようになりました。

つまり、走って移動することは遺伝子に組み込まれた人間の本質である、みたいな考え方もあるようです。




移動距離と幸福度の関係

人間の繁栄は長距離を移動する能力によってもたらされたとすれば、生涯における移動距離が長いひとほど人間らしい幸福な人生を送れるのかもしれません。

もちろん、生まれ育った地元から離れず、なじみの仲間に囲まれて半径50kmで完結する幸福な人生もあると思いますが、選択肢と可能性が限定されてしまうというデメリットがあると思うわけです。

逆に、世界を飛び回っている人のなかには、不幸な人はあまりいないでしょう。あるいは、幸福度が高まって自由になることで、人はさかんに移動するという本来の習性を取り戻すのかもしれません。


観光客の時代

人間の本質は狩猟採集生活をしている時からあまり変わっていませんが、物質的に豊かになって情報が流通することによって人間の行動様式は変化します。



グローバル化による繁栄の影響からか、全世界的に観光客が急速に増えています。農耕牧畜社会に移って定住を始めてからいったん影を潜めた長距離移動の本能が、近代以降、観光という形でリバイバルしているのかもしれません。

さらに観光は世界を変える可能性があるし、観光客は他者について考える新しい哲学にも通ずる重要な概念であるという興味深い考えがあります。

ゲンロン0 観光客の哲学
東 浩紀
株式会社ゲンロン
2017-04-08



精神疾患と移動能力の低下

ほとんどの精神疾患は、間接的に移動能力の低下をもたらします。そうすると、生活の幅が狭まって人生における選択肢と可能性が失われていきます。そのような状況自体が精神疾患の回復を阻む要因となって悪循環を形成していることがあります。

その極端な例がここ最近話題になっている座敷牢で、1.5メートルの範囲で20年以上生活していたというから驚きです。

逆に、定期的な運動は、うつ病の治療と予防に効果があるという統計があります。
結果、早歩きやジョギングなど特に適度に活発で、運動プログラムが完了できるように監督されている場合、運動はうつ病に対して「大きく、重大な影響」があることがわかった。人々の精神的な健康は、肉体的に活発だと明らかに向上する傾向にあった。
移動能力はライフスキルトレーニングの重要項目でもあり、うまく快方に向かっている患者さんは行動範囲が拡がっていくし、旅行を楽しむようになったりして、それが回復のバロメーターにもなったりします。


サルコペニア

サルコペニアとは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指します。または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。

産業医研修でも話題になっていたのですが、現在はメタボに代わってサルコペニアがキーワードになっています。メタボよりも生活の質を左右するのではないかと言われていて、なかでも特に足腰の筋力低下は生活に大きな影響を与えます。

140626_sarcopenia
お年寄りが転倒して足を骨折したの機に、心身ともに坂道を滑り落ちるように弱っていくことがよくあります。逆に、毎日坂道を登っているお年寄りはいつまでも元気だったりします。

認知症の治療で重要なのは、認知機能がどうのこうのとか、薬のチョイスではなくて、いかにサルコペニア〜廃用症候群を防ぐか、だったりします。

筋力の低下は加齢とパラレルに進行してしまうので、意識的に予防することが大切です。低強度の有酸素運動が有効なので、エスカレーターやエレベーターは極力使わずに階段を登ったり、早歩きによって日常的に運動負荷をかけることが大切だそうです。


このページのトップヘ

見出し画像
×