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かつて神聖な病とされていた統合失調症


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今ではとうてい考えられませんが、ひと昔前、一部の人たちの間では、統合失調症という病気は神聖な病であると考えられていました。

シグナリング・コストとしての分裂病/統合失調症

エキセントリックでサイケデリックなサブカルチャーだけでなく、精神疾患や精神病理学や精神分析も「高い開放性」のシグナリング・コストとして消費されるようになりました。

精神疾患のなかでも統合失調症は、急性期の病状において異様な言動がみられることがあるので、特にシグナリング・コストが高く、ナゾめいた病としてもてはやされました。

「高い開放性」をディスプレイするための「ファッショナブルな狂気」である統合失調症の魅力に精神科医たちが飛びついて、神格化されていくことになります。

統合失調症は神聖な病か?


このへんの歴史的経緯について、この雑誌の巻頭グラビアにも登場するオトコマエな精神病理学者である松本卓也が明快に解説をしています。

1920年代、(のちに哲学者になった)精神科医ヤスパースは、統合失調症のことを「真理なき時代、真理に到達できる唯一の人間」と称揚しました。

次に、精神病理学のなかでも特にややこしい現存在分析というジャンルをやっていたビンスワンガーやブランケンブルグらは、統合失調症のなかに「人間の現存在の世界のなかへの住まいかたの真理」をみていました。

1960年代、少し遅れて日本でも木村敏、中井久夫、宮本忠雄ら精神病理学者によって「分裂病中心主義」が始まりました。

1990年代にはサブカルチャーを語る精神科医として斎藤環が登場し、デヴィッド・リンチなどシグナリング・コストの高い作家と統合失調症の関連について取り上げていました。

このように統合失調症は、ねちっこく研究対象にされて「人間の本質を示す特権的な狂気」として祭り上げられ、精神科医だけでなく文化人たちもそれに便乗することで、臨床と人文知の共通言語となりました。

このトレンドは、内海健「分裂病の消滅」が出版された2003年ころまで続きました。

ポスト分裂病時代の精神科医

ちなみに、ぼくが精神科医になったのがちょうど2003年で、その前年ちょうど臨床実習をやってたころに分裂病から統合失調症に呼称変更がありました。

さらに、翌2004年には「発達障害支援法」が成立して、精神科医療において発達障害を重視するトレンドが始まりました。

今ふりかえってみると、とても大きな節目の時期だったわけです。

分裂病/統合失調症に興味をもって精神科医になったのに「え?消滅したの?もう終わり?」って衝撃を受けたのを覚えています。その頃は、疾患単位としての分裂病/統合失調症と、人文知の共通言語(メタファー)としての「分裂病」を混同していたようです。

人文知の共通言語/メタファー/シグナリング・コストとしての統合失調症は、実際の医療とはほとんど関係ありません。ですが、両者があたかも関連があるかのような夢というか幻想が共有されていた時期がありました。

ぼくが精神科医になったとき、ちょうどその幻想が黄昏を迎えていたんだなと、しみじみ思う今日このごろです。


ファッショナブルな狂気


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先日、「マックイーン・モードの反逆児」というドキュメンタリー映画を観に行きました。もともと中心気質の天才ということで興味があったからです。



庶民的な家庭に生まれ、天真爛漫でかざらない性格で、大成功して上流階級の仲間入りをしても誰にもこびないカジュアルなスタイルを貫き通したことが知られています。


Alexander McQUEEN

ALEXANDER McQUEEN
このパッと見フツーのおじさんっぽいひとが、イギリスの天才的なファッションデザイナー「リー・アレキサンダー・マックイーン」そのひとです。

その外見からは想像もつかないような素晴らしいデザインを生み出しました。
ALEXANDER McQUEEN2008
若くして頭角を現し、型破りでセンセーショナルな手法で時代の寵児となりました。20代でロンドン・コレクションに参加し、GIVENCHYの主任デザイナーやGUCCIのクリエイティブ・ディレクターを歴任し、自身のブランド「ALEXANDER McQUEEN」を立ち上げ、パリ・コレクションに参加、デヴィッド・ボウイ、ビョーク、レディー・ガガの衣装をプロデュースするなど精力的に活動し、数々の独創的な作品や衝撃的な演出を生み出しました。


矛盾が矛盾なく同居すれば迫力になる

マックイーンは、名門店が集まるサヴィル・ロウ通りの高級紳士服店で見習いを始め、伝統的なオートクチュールに前衛的なパンクの要素を融合させる斬新なスタイルを確立させました。

彼の作風は、優雅さや繊細さとともに死・暴力・動物性・虚無感など人間のダークサイドが折り込まれることが特徴です。

そのような矛盾が矛盾なく作品のなかに同居することによって、独特の迫力を生み出しています。
ALEXANDER McQUEEN SKULL
では当たり前になったドクロのモチーフを流行させたのはマックイーンであるという説があります。

しかし、自身の内に矛盾を抱え込むことはとても過酷なことだったのかもしれません。彼は富と名声の絶頂期にありながらも、次第に酒やドラッグにおぼれるようになり、40歳の若さで自らの命を絶ちました。


ファッショナブルな狂気

2001年にマックイーンは、精神病院をモチーフにした衝撃的なコレクションを開催しています。
ALEXANDERMCQUEEN_ VOSS
時代の最先端を表現する若きファッションデザイナーが、文字通り「狂気」をファッションとして身にまとう方法を採用していた事実がとても興味深いと思う今日このごろです。

前に紹介したジェフリー・ミラーの仮説「精神疾患や精神病理がシグナリング・コストとして機能すること」を体現しているからです。


詳しくは下記を参考にしてください。

若者にとって重要な特性である「高い開放性」をディスプレイするには、それなりのシグナリング・コストを支払わなければならないという話。


また、エキセントリックでサイケデリックなサブカルチャーと同様に、精神疾患や精神病理学もシグナリング・コストとして消費されるようになったという話。



マックイーン:モードの反逆児 [Blu-ray]
リー・アレキサンダー・マックイーン
2019-09-03


高い開放性の魅力と代償


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パーソナリティモデル「ビッグ・ファイブ」より

前回はクロニンジャーの気質モデルを紹介しました。


パーソナリティのモデルとして有名な「ビッグファイブ」(5因子モデル)も遺伝要因が大きいとされています。
  • 開放性/openness 好奇心旺盛で遊び心がある。≒新奇追求
  • 誠実性/conscientiousness しっかり者で、だらしなくない。
  • 同調性/agreeableness 相手に合わせる、共感能力。
  • 外向性/extraversion 社交的なひと。報酬依存と関連。
  • 安定性/stability ストレスに影響されずに安定する。
5因子の高さはそれぞれ人間的魅力に関連しています。どの因子が魅力的に感じるかは、評価するひとの年齢や立場に関係しています。

開放性や外向性の高さは、若者にとって最も魅力的な特性であるといえるでしょう。歳をとるにつれて誠実性や同調性が重視されるようになっていきます。


主人公は中心気質

主人公は中心気質
伝統的な精神医学の気質論によると、開放性の高さは中心気質において顕著です。開放性の高い中心気質者が若者にとって魅力的である証拠は枚挙にいとまがありません。

たとえば、人気ある少年漫画の主人公は、ほとんど開放性が高い中心気質者です。
  • ドラゴンボールの孫悟空
  • ワンピースのモンキー・D・ルフィ
  • HUNTER×HUNTERのゴン=フリークス
  • 進撃の巨人のエレン・イェーガー(ちょっと屈折していますが)
みんな好奇心のカタマリです。そもそも主人公の開放性が高くないと物語が展開しないのでしょう。

ですが、「中心気質は破綻しやすいか」で書いたように、現代社会では中心気質は発達障害に通じる特性でありハンディキャップになりがちです。


中心気質というハンディキャップをもっていても、それを努力や仲間との協力によって乗り越えて活躍するからこそ、主人公の魅力がよりいっそう増すのかもしれません。


ストッティングというシグナリング・コスト

若いガゼルやスプリングボックは、天敵であるオオカミに襲われそうになった時に奇妙な行動をとります。すぐに逃げればいいのに、思いっきり真上にジャンプする「ストッティング」という行動です。
ストッティング
これではカンタンに天敵に見つかってしまい、逃げおくれる確率が高まってしまいます。「自分がオトリになって天敵をおびき寄せ、群れのなかの弱い個体を守るため」というロマンティックな説明があったようですが、逆に今では「こんなに高くジャンプできるくらい運動能力に自信アリだから追いかけてもムダだよ、他のヤツを狙ってね」というシグナルを発している説が有力です。

ストッティングという「ハンディキャップ」をあえて背負い「シグナリング・コスト」を一時的に支払うことでターゲットから外されるという利益を得ています。オオカミ側も効率よく犠牲者を選択することができるという利益を得ています。

つまり、ストッティングでシグナルを発するガゼルと、シグナルを受けとるオオカミは、win-winの情報伝達/コミュニケーションをとっていることになります。

たとえば、難関大学卒業というシグナリング・コストを支払った就活生と企業の採用担当者の関係などなど、いろいろ説明できそうです。


ピート・タウンゼントはなぜ高く跳ぶのか

シグナルは単なる情報伝達ではなく操作できるものなので、これを逆手にとって戦略的に利用する個体がいもおかしくありません。

たとえばこのパフォーマンス。
whoストッティング
僕の尊敬するロックバンド「The who」のギタリストであるピート・タウンゼントはその演奏能力もさることながら、演奏しながら飛び跳ねたりギターを破壊したりと、破天荒なステージ・パフォーマンスに定評があります。

まじめな話、跳躍すると演奏しにくくなるので多大なコストを支払っているわけです。そのおかげで、このパフォーマンスは計り知れない視覚効果を生み出して、最高にカッコいいというシグナルは発するわけです。




楽器の弾けないミュージシャン

極端な話、楽器が弾けなくてもエキセントリックなパフォーマンスだけで存在を確立してしまうミュージシャンだっているわけです。これまた僕が尊敬してやまない「電気グルーヴ」のピエール瀧そのひとです。



若い頃ならまだしも、中高年になってもなおその高い開放性を維持することは、とても大きな重圧があったことでしょう。

今回の逮捕はとても残念でショックでしたが、過去の素晴らしい作品を発売停止にしないでほしいと願っています。また、もし薬物依存の状態であるなら回復を陰ながら応援していきたいと思います。

VOXXX
電気グルーヴ
2000-02-02


次回は、高い開放性をディスプレイするには、どのような方法があるか、まとめていきます。


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