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高い開放性の魅力と代償


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パーソナリティモデル「ビッグ・ファイブ」より

前回はクロニンジャーの気質モデルを紹介しました(新奇追求、統合失調症、ドーパミン)。

パーソナリティのモデルとして有名な「ビッグファイブ」(5因子モデル)も遺伝要因が大きいとされています。
  • 開放性/openness 好奇心旺盛で遊び心がある。≒新奇追求
  • 誠実性/conscientiousness しっかり者で、だらしなくない。
  • 同調性/agreeableness 相手に合わせることができる。共感能力。
  • 外向性/extraversion 社交的なひと。報酬依存と関連。
  • 安定性/stability ストレスに影響されずに安定する。
5因子の高さはそれぞれ人間的魅力に関連しています。どの因子が魅力的に感じるかは、評価するひとの年齢や立場に関係しています。

開放性や外向性の高さは、若者にとって最も魅力的な特性であるといえるでしょう。歳をとるにつれて誠実性や同調性が重視されるようになっていきます。


主人公は中心気質

主人公は中心気質
伝統的な精神医学の気質論によると、開放性の高さは中心気質において顕著です。開放性の高い中心気質者が若者にとって魅力的である証拠は枚挙にいとまがありません。

たとえば、人気ある少年漫画の主人公は、ほとんど開放性が高い中心気質者です。
  • ドラゴンボールの孫悟空
  • ワンピースのモンキー・D・ルフィ
  • HUNTER×HUNTERのゴン=フリークス
  • 進撃の巨人のエレン・イェーガー(ちょっと屈折していますが)
みんな好奇心のカタマリです。そもそも主人公の開放性が高くないと物語が展開しないのでしょう。

ですが、「中心気質は破綻しやすいか」で書いたように、現代社会では中心気質は発達障害に通じる特性でありハンディキャップになりがちです。

中心気質というハンディキャップをもっていても、それを努力や仲間との協力によって乗り越えて活躍するからこそ、主人公の魅力がよりいっそう増すのかもしれません。


ストッティングというシグナリング・コスト

若いガゼルやスプリングボックは、天敵であるオオカミに襲われそうになった時に奇妙な行動をとります。すぐに逃げればいいのに、思いっきり真上にジャンプする「ストッティング」という行動です。
ストッティング
これではカンタンに天敵に見つかってしまい、逃げおくれる確率が高まってしまいます。「自分がオトリになって天敵をおびき寄せ、群れのなかの弱い個体を守るため」というロマンティックな説明があったようですが、逆に今では「こんなに高くジャンプできるくらい運動能力がに自信アリだから追いかけてもムダだよ、他のヤツを狙ってね」というシグナルを発している説が有力です。

ストッティングという「ハンディキャップ」をあえて背負い「シグナリング・コスト」を一時的に支払うことでターゲットから外されるという利益を得ています。オオカミ側も効率よく犠牲者を選択することができるという利益を得ています。

つまり、ストッティングでシグナルを発するガゼルと、シグナルを受けとるオオカミは、win-winの情報伝達/コミュニケーションをとっていることになります。

たとえば、難関大学卒業というシグナリング・コストを支払った就活生と企業の採用担当者の関係などなど、いろいろ説明できそうです。


ピート・タウンゼントはなぜ高く跳ぶのか

シグナルは単なる情報伝達ではなく操作できるものなので、これを逆手にとって戦略的に利用する個体がいもおかしくありません。

たとえばこのパフォーマンス。
whoストッティング
僕の尊敬するロックバンド「The who」のギタリストであるピート・タウンゼントはその演奏能力もさることながら、演奏しながら飛び跳ねたりギターを破壊したりと、破天荒なステージ・パフォーマンスに定評があります。

まじめな話、跳躍すると演奏しにくくなるので多大なコストを支払っているわけです。そのおかげで、このパフォーマンスは計り知れない視覚効果を生み出して、最高にカッコいいというシグナルは発するわけです。

楽器の弾けないミュージシャン

極端な話、楽器が弾けなくてもエキセントリックなパフォーマンスだけで存在を確立してしまうミュージシャンだっているわけです。これまた僕が尊敬してやまない「電気グルーヴ」のピエール瀧そのひとです。



若い頃ならまだしも、中高年になってもなおその高い開放性を維持することは、とても大きな重圧があったことでしょう。

今回の逮捕はとても残念でショックでしたが、過去の素晴らしい作品を発売停止にしないでほしいと願っています。また、もし薬物依存の状態であるなら回復を陰ながら応援していきたいと思います。


新奇追求、統合失調症、ドーパミン


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クロニンジャーの気質モデル

「性格」は後天的につくられる行動傾向のこと、「気質」とは生まれながらの行動傾向のことです。

クロニンジャーというアメリカの精神医学者がみつけた気質モデルのうち、神経システムに対応するものが3つあることが知られていて、それぞれ遺伝しやすいことがみとめられるようになっています。
  • 新奇追求
  • 損害回避
  • 報酬依存


    新奇追求


新奇追求/新しもの好き

新しかったり珍しかったりする刺激に対して興奮しやすく、それを追い求めるためにリスクをかえりみず衝動的に意思決定する性質で、ドーパミン神経システムと関係しています。

損害回避/損したくない

悪いことが起こるのではないかという予測に対して、それを避けてリスクをとらないよう慎重に用心深く意思決定する性質で、セロトニン神経システムと関係しています。

報酬依存/ほめられたい

義理堅く情に厚く、他者から喜ばれたり褒められたりすることで、良い人間関係を保つことを重視して意思決定する性質で、ノルアドレナリン神経システムと関係しています。


新奇追求と損害回避は相反する性質で両立は難しそうです。報酬依存はそれぞれと両立することができます。また、新奇追求/損害回避はより原始的な性質で、報酬依存はより社会的な性質を帯びているといえます。


伝統的な精神医学の気質分類との対応関係

伝統的な精神医学にある気質との対応関係はどうなっているでしょう。


新奇追求損害回避報酬依存
中心
循環
分裂

  • 中心気質 新奇追求が高くて、損害回避が低く、報酬依存には無頓着。
  • 循環気質 損害回避と報酬依存を重視して、新奇追求には慎重。
  • 分裂気質 報酬依存には無頓着で、損害回避はそこそこで、新奇追求は???
中心形質と循環気質は明確な対応関係がありますが、分裂気質は少し複雑なようです。


分裂気質/統合失調症と新奇追求

分裂気質は統合失調症の病前性格とされています。一方で、統合失調症は新奇追求に関与するドーパミン神経システムの不具合によるものであるとされています。

このへんの対応関係はどうなっているのでしょうか?

統合失調症がまさに発症する「急性期」について。記憶力と表現力が豊かな患者さんは、自分が発症するときの様子をつぶさに説明してくれることがあります。

とても怖い体験をされたひとがいる一方で、とても魅力的で感動的な体験をしたというひとがたまにいらっしゃいます。まるで新奇追求性が一挙に高まっているかのように。

たとえば、かつて中井久夫は今まさに統合失調症が発症していく瞬間をロマンティックに描写しました。
身体が全く鳴りを潜め、この奇妙な静けさを背景とする知覚過敏(外界のこの世ならぬ美しさ、深さ、色の強さ)、特に聴覚過敏、超限的記憶力増大感(読んだ本の内容が表紙を見ただけでほとんど全面的に想起できる確実感)と共に、抵抗を全く伴わず、しかも能動感を全く欠いた思路の無限延長、無限分岐、彷徨とを特徴とする一時期がある。
これはつまりドーパミン神経システムが過剰に作動して新奇追求性が高まった状態に他なりません。

「急性期」の病状が落ち着いて「消耗期」と呼ばれる段階になると、逆に新奇追求性が乏しくなり損害回避性が高まっているようにみえます。

このように、統合失調症は病気のステージによってドーパミン神経システムのバランスが変動する特徴があります。

急性期はすぐに終わってしまうので、どうしても消耗期から回復期にいる患者さんの割合が多くなります。なので、一般的には統合失調症/分裂気質と新奇追求はあまり関連がないように思われていたりしますが、実はとても関連が深かったりするわけです。


ドーパミンの高まり/統合失調症・恋愛・コカイン

ドーパミンは、脳の奥深くにある原始的な爬虫類レベルの脳部位「腹側被蓋野/VTA」からA10神経を経由して脳のあちこちにばらまかれます。
VTA
それによって主に活性化される脳の機能は
  • 欲望/Wanting
  • 動機/Motivation
  • 集中/Focus
などなど。生きる上でとても大切な根本的な機能であり、新奇追求に密接に関わっています。

ドーパミン神経システムは、統合失調症の急性期以外にも、激しい恋愛のさなかや、コカインを摂取している時に活発化することが知られています。

これはいずれも非合理的な事態であり、しばしば「狂気」と呼ばれたりします。

合理的な動物であるハズのヒトが、
古今東西、好むと好まざるとにかかわらず、非合理的な「狂気」にあこがれを抱かずにはいられませんでした。

それは一体なぜなのか。

奇抜なパフォーマンスをするミュージシャンや、狂気をロマンティックに記述する精神科医にあこがれを抱いていた若かりし頃を思い出しながら、これから少しずつ考えていきたいと思います。

ひきこもりのメリットその1「闘争しなくてもいい」


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ひきこもりのメリットを考えてみようというわけで、ひきこもりのメリットについて具体的に考えていきます。

年間 288人 / 20,465人 

これは何の数字でしょうか?

正解は、日本における他殺者数/自殺者数です(厚生労働省 2017年人口動態統計より)。

日本は他殺に比べて圧倒的に自殺が多い国です。さらに他殺数はどんどん減少しています。

推移はこちら。
他殺と自殺の推移


殺人の動機=成熟の条件

一般的に、殺人の動機は「イロ・カネ・メンツ」といわれています。恋人やお金を奪われたり、メンツをつぶされたりすることでトラブルが生じて「ぶっ殺す!」ってなるのは想像に難くありません。

同時に「イロ・カネ・メンツ」は「成熟の条件」でもあります。成熟、つまり「オトナ」になるための条件。

自分でお金を稼いで経済的に自立して、パートナーをゲットして結婚して、社会的な役割を果たして評判を得ることができるひとのことを、世間は「立派なオトナ」と呼んでいます。

なぜ、成熟の条件が殺人の動機になるかと言うと、「イロ・カネ・メンツ」は特定のひとに集中して極端にかたよってしまうというやっかいな性質があって、熾烈な競争が生まれるからです。

成熟と闘争

「イロ・カネ・メンツ」には平等なんてありえません。身長や体重のように穏やかな正規分布にすらなりません。100倍身長の高いひとはいませんが、100倍年収の高いひとはゴロゴロいます。

それは、べき乗分布のごとく過激なカーブを描きます。
べき乗分布
めちゃくちゃモテるひと・めちゃくちゃ金持ちなひと・めちゃくちゃ評判のいいひとはごくひと握り。大多数のひとは、モテないし・お金がないし・評判がよくありません。

なので、モテるため・大金を手に入れるため・評判を上げるためには、闘争して勝って頭ひとつ飛びぬけなければいけません。リスクはあるけどワンチャンあるかも!というわけです。

あまり表立って言われませんが、受験も恋愛も就職も完全なる競争です。勝つことなしに「イロ・カネ・メンツ」をゲットできるほど世の中甘くありません。

こんなことをいうと不機嫌になるひとがいるのですが、そうなっているのだから仕方がありません。

競争を毛嫌いするひとの真逆に、競争を賛美するひとがいて2極化がはなはだしいのですが、どちらの立場とも現状をリアルにとらえられません。

もっとマクロのレベルで考える必要があります。生物の世界が弱肉強食なのかといえば全くそうではないからです。


絶滅寸前のトラ/はびこるネズミ

生物の世界は「弱肉強食」と考えられがちですが、正しくは「適者生存」です。強いものではなく環境に適したものが生き残ります。

強い生物はしばしば絶滅危惧種で、アジア最強のトラは3000頭あまりに減少しているそうです。一方で、トラよりも圧倒的に弱いネズミはうじゃうじゃと世界中にはびこっています。

そこそこ「か弱い」人間は、社会インフラをつくることで環境自体を変えるようになりました。それによって、成熟できない・自分のチカラでは生き延びられない・「か弱い」個体でも生存可能にする戦略をとって繁栄することができました。

ある環境において「か弱い」という形質/特性が、別の環境においては逆に「強み」になることはめずらしくありません。

人間は、多様な形質/特性を社会に抱えることによって、さらに多様な環境に適応できるようになりました。今風にいうとダイバーシティを推進してイノベーションを起こそう!ってノリを地でいってたわけです。

こうして、個体レベルでは局所的に闘争することはあるものの、種のレベルでは協調が行われています。


社会インフラの成熟と個人の成熟は反比例する

成熟できない・ひとりでは生き残れない・「か弱い」個体をどれだけ保護できるかは、社会インフラがどのくらい成熟しているかに比例します。

戦後の焼け野原、社会インフラがボロボロだった時代は、成熟できないことは死に直結していたでしょう。個体が成熟することが強く求められていたので、団塊世代は強くたくましく育成されました。

現代の日本は世界的にみても社会インフラが非常に発達しています。交通網と通信網が張り巡らされ、欲しいモノや情報やサービスがすぐ手に入ります。

成熟できない・ひとりでは生き残れない・「か弱い」ひとでも、さまざまなリソースを利用することによって快適に生活することができるようになっています。

いったんそんな社会ができあがると、ムリして成熟しなくても生きていくことができようになります。リスクある闘争を避けてひきこもり、成熟しない戦略をとる個体が増えることはとても合理的なことです。

誰しも闘争なんてしたくはありません。平和がイチバン。闘争せずに生きていけるならそれに越したことはありません。

つまり「ひきこもり」のメリットは「闘争しなくてもいい」ことです。


少年犯罪は増えているのか?

若者の〇〇離れ、草食化が進んでいるといわれる一方で、少年犯罪がセンセーショナルにとりあげられて親の不安をあおったりします。

ひきこもりの状態になったお子さんを持つ親から「将来うちの子は事件を起こしたりしませんか?」と質問されることはめずらしくありません。

実際に統計を調べてみると、、、

少年犯罪の推移
出典:少年犯罪データベースより作成
10歳以上20歳未満の少年人口10万人当たりの少年刑法犯検挙人員の比率

このように、少年犯罪は減少傾向にあります。ちなみに、強くたくましい団塊世代の犯罪率が異常に高かったことがよくわかります。

もっとマクロな視点で、全人類史を通して全世界的にみても、殺人は減少しているようです。進化心理学者スティーブン・ピンカーは、膨大なデータを精査してそれを実証しました。先史時代から現代にかけて全世界における戦争で死亡した人の割合を並べた壮大なグラフがこちら。
暴力の人類史_戦争により死亡する人の割合

ひきこもることで闘争しなくてもよくなることはメリットなのですが、自殺のリスクが高まってしまうことは大問題です。

次回は、自殺の問題を考えながら、ひきこもりのメリットその2「働かなくてもいい」を紹介していこうと思います。

共感の起源としての群れ/共感を媒介するオキシトシン


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前回は「共感のバランス」についてまとめました。
今回は共感の起源とオキシトシンとの関係をまとめてみました。


共感の起源

鳥の群れ
群れのメンバーが近接した距離で共存し,安定して群れの移動が維持されるためには行動を同調させる必要がある。
この論文によると、動物における群れの機能が共感の起源と関連しているのではないか、と考えられています。

群れをつくるために、まずはメンバー間が行動を同調させることが必要になります。リズムや周期のある行動の同期化は、ゲンジボタルや魚の群れにもすでに認められています。

これは原初的な情動的共感(EE)と言えるかもしれません。

哺乳類では、相手の意図や行動の意味を予測する能力が備わることによって、行動・注意・情動の変化を相手と一致させ、他者の視点を獲得できる素地ができるようになります。

この時点で認知的共感(CE)まであと少しで到達できそうです。


群れから社会へ

群れの形成は集団の安定と発展のみならず、個体の生存と適応度を上昇させて、社会的な緩衝作用や弱者保護の概念をもたらします。

今からおよそ250年前に哲学者ジャン=ジャック・ルソーは共感のひとつである「憐れみ」について独特な考え方をしていたことが東浩紀の著作によって紹介されています。
人間は「憐れみ」のゆえに、幸せな孤独を捨てて群れて生きてしまう。そしてこの「憐れみ」は、決して人間独特のものではない。それは理性や反省から離れたもので、一部の動物たちにも備わる能力である
人間は、まさにその「獣」に近い能力によってこそ社会を作って自分たちを守ることができたというのが、ルソーの主張なのである


通常、「憐れみ」はプライベートな感情であると考えられています。しかし、ルソーは「憐れみ」はパブリックな営みであり「憐れみ」こそがひとを結びつけて社会をつくると考えました。

人間の理性が社会をつくると考える一般論とは逆に、動物的な共感こそが社会をつくる基盤であることをルソーが見出していたことはとても示唆に富みます。


共感を媒介するオキシトシン

オキシトシンはギリシャ語で「すばやい出産」という意味で、産婦人科領域で陣痛促進剤として知られている、神経系や血液を介してシグナルを伝達する物質です。

その後、小動物では愛着行動を促進する作用があることがわかり、社会的シグナルの認知や養育行動の発現を促進すると考えられました。つまり、共感を媒介する物質と言えるでしょう。


自閉スペクトラム症(ASD)ではオキシトシンの伝達に異常があることが指摘されているため、オキシトシンはASDの治療薬になるのではないかと考えられています。
東京大学医学部附属病院 精神神経科 山末英典准教授らは自閉スペクトラム症と診断がつく20名の成人男性を対象にランダム化二重盲検試験を探索的に行い、オキシトシン経鼻剤の6週間連続投与によって対人相互作用の障害と呼ばれる自閉スペクトラム症の中核症状が改善することを発見しました。

哺乳類の母仔間において、仔の鳴き声や吸乳行動は母のオキシトシン分泌を促進して、母性行動を高めます。さらに、母性行動を受けた仔もオキシトシン分泌が促進されて身体的な接触を求めるようになって以下繰り返し、という連鎖反応が起こって正のループを形成します。

双方から発せられる感覚的なシグナルのやりとりがオキシトシンによって促進されることによって、情動伝染・警戒の伝搬・移動の同期化が可能になり、群れの運営が可能になります。

ヒトはこのプロセスをアイコンタクトのみで達成できるように進化しました。また、ヒトと収斂進化したイヌは(チンパンジーやオオカミと違って)この能力を獲得しているとされています(オオカミの社会性、イヌの定型発達症候群)。

オキシトシンを投与されたイヌは飼い主を見つめるようになり、見つめられた飼い主はオキシトシン分泌が高まり、正のループが形成されます。

つまり、ヒト同士はもちろん、ヒトとイヌの間でもオキシトシンによる正のループが起こるわけです。


共感の拡張性は?

というわけで、オキシトシンが媒介する共感はめでたく種の壁を越えました。人間は母子間だけでなくアカの他人からペットの犬にいたるまで、共感によって社会を拡張させることができます。

それならば無生物、たとえばロボットならどうなのか、という疑問が湧いてくるわけで、次回は人工的な共感が可能かについて調べてみたいと思います(共感するロボットを設計すること)。

色彩感覚からの共感能力


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ASDのひとは黄色が苦手?

自閉スペクトラム症(ASD)の症状のひとつである感覚過敏は、普段の色の好みにも影響しているのか、という研究。
正高信男 霊長類研究所教授、マリン・グランドジョージ レンヌ第一大学講師らの研究チームは、自閉症スペクトラム障害(ASD)の特徴の一つと考えられる知覚過敏の中でも色彩に着目し、ASD児の色彩感覚にどのような特徴がみられるかを調査しました。
ASD児の色彩感覚結果グラフ
その結果、ASD児は比較的茶色と緑色を好み、黄色を嫌がることがわかりました。黄色は生理的に刺激が強いことが原因ではないか、という考察です。

確かに、視覚障害者のための点字ブロックは目を引きやすいように黄色にしてあります。
黄色い点字ブロック
ただ、ASDは感覚過敏があって黄色は刺激が強いので気をつけましょう、という理解だけだと薄っぺらい感じがして何だか物足りません。

知覚の様式が通常とは異なるという特性は、ASDにとってどのような意味を持つのか、考えてみたいと思います。


霊長類が色彩感覚を発達させた理由

そもそも、霊長類は樹上生活に適応するためにすばらしい色彩感覚を身につけてきました。これには栄養分に富んだ果実や若葉を検出できるように進化したという説明があります。

以前紹介したマーク・チャンギージーによると、人間の色彩感覚は光そのものの色ではなく、「肌の色の変化」を知覚するために最適化されているらしいです。

人間の肌の色は酸素飽和度の高低(赤↔緑)とヘモグロビン濃度の高低(青↔黄)によって色が変わります。これに対応して、色覚を感知する錐体細胞は、肌の色が大きく変わる色の波長(赤・緑・青)を感知するのに都合よく配置されています。

そうすると、血液が滞ってうっ血しているのか、酸素が足りないのか、という健康状態だけでなく、怒って赤くなっているのか青ざめているのかという感情や精神状態を鋭敏に捉えることができるようになります。

人間の色彩感覚は、ちょうど医療機器「パルスオキシメーター」のごとく健康状態を把握したり、極端な話、超能力者のように相手の感情や精神状態を読みとる能力があると言えるわけです。
人間の目は、肌を、セックスとバイオレンス満載の感動的なドラマを眺めることのできる、フルカラーのディスプレイに変えるように進化してきたからだ。色覚を持たない動物には、あるいは、私たちと同じような色覚を持たない動物には、そうした肌の「ショー」は見えない。

ひとの目、驚異の進化: 4つの凄い視覚能力があるわけ
マーク チャンギージー
インターシフト
2012-10-20




肌の露出と色彩感覚

肌の色彩
最近では「肌色」のことを「うすピンク」と表現するようですが、「肌色」はいわばキャンバス、つまりデフォルトな色なので表現しにくかったり、知覚しにくかったりします。反面、化粧で少し色をつけるだけですごくインパクトをもちます。

色覚は霊長類によって大きな差があります。たとえば、キツネザルにはフルカラーの色覚はありません。
キツネザル
一方で、ニホンザルなどの旧世界ザルや人間にはフルカラーの色覚があります。
ニホンザル
写真をみれば一目瞭然、キツネザルの顔は体毛に覆われていて肌が露出していなくて、ニホンザルなどの旧世界ザルと人間の顔は肌が露出しています。さらに人間は二足歩行によって視認できる肌の領域が格段に増えました。

これによって、肌の変化をこまやかに観察できるようになって、健康状態から感情や精神状態の変化をとらえやすくなったのではないかと考えられています。

これは、相手の気持ちを考えて「共感する能力」を基礎づけることに関与しているのかもしれません。

色覚の男女差

マーモセット
系統発生的にはキツネザルとニホンザルのちょうど中間にあたるマーモセットなどの新世界ザルは、メスだけがフルカラーの色覚をもっています。色覚能力には明確な男女差が存在しています。

これは、メスが子どもの健康状態や気分を把握しなければならない場面が多いことに適合しているようです。つまり、メスはオスよりも相手の感情や精神状態を感じとる能力、いわば共感する能力に長けているのかもしれません。

ちなみに、人間の色覚異常は男性の方が女性より約250倍も多いのはこの流れをひきずっているようです。

色覚異常のひとが見る世界

色覚異常のひとは情報処理の過程が通常のひととは異なるので、物事の捉え方や感じ方、もしかしたら考え方や世界観まで違っているのかもしれません。
ゴッホの自画像ゴッホの本当のすごさを知った日
ゴッホの作品は独特な色づかいで異彩を放っていますが、↓↓↓のように作品を色覚異常の見え方をシュミレートすると全く違った味わいが出てくるそうです。
色覚異常者がみたゴッホの自画像
色覚体験ルームで見たゴッホからは、そのような色の突拍子のなさというか、線の荒さというか、そんなのがすーっと消えて、とても繊細で微妙な濃淡を持つ見事な絵になっていたのだ。
ゴッホの本当のすごさを知った日
このように、なんとなく深みとか凄みが増しているようです。

別の観点からみると、色覚異常のひとは色のバリエーションが少ないおかげで、取り扱うデータ量を縮減して情報処理を効率化させているハズです。もしかしたら、それによって別の能力を高めることにリソースを配分しているのかもしれません。


共感する能力/システム化する能力

ところでASDのひとは共感するのが苦手とされていて、色覚異常ほどではないのですが、ASDも男性の方が女性よりも約4倍多いことが知られています。

もしかしたら、女性は「色彩感覚からの共感能力」を活用してASDの症状を代償している可能性があるのかもしれません。

ここでどうしても連想してしまうのはサイモン・バロン=コーエンです。彼は、物事を秩序立てるシステム化能力に優れた男性と、他者と共感する能力に優れた女性を対比させて、ASD者が共感よりもシステム化する傾向が高いことを示しました「共感-システム化理論(EST)」。

共感する女脳、システム化する男脳
サイモン・バロン=コーエン
NHK出版
2005-04-28




共感という概念はなかなか複雑なので、次回にでも整理していきたいと思います。

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