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前回からの続きです。


精神科医療におけるノーマライゼーションは建前としては浸透しているけど、実質的にはまだまだ浸透していないのではないか、という話でした。

今回は、ひと昔前にあった、急進的にノーマライゼーションをすすめようとするアツいチャレンジについて、少しだけまとめました。


治療共同体という失敗

昔々、医療者も患者さんも対等な立場で交流する「共同体」をつくりましょう、というロマンティックな考え方がウケていた時期があったそうです。とある地域では、精神科医が白衣を脱いで私服で診察するスタイルが流行していました。

とくにアルコール依存症の治療共同体が流行っていたみたいで、たとえばアルコール依存症のひとを支援する精神科医は自分自身も対等に?アルコール依存症じゃないとアカンよね、みたいなノリがあったようです。同じ依存症同士の方がわかりあえる、ということでしょうか。

そういえば最近、どこかのアルコール依存症専門クリニックの院長が飲酒運転で事故って現行犯逮捕されたというニュースがありましたが、治療共同体文化の名残りだったりするのかもしれません。

それはともかく、このような治療共同体という試みはことごとく失敗したので、現在はほとんどその痕跡は残っていません。お行儀のよい患者さんばかりを集めて会員制クラブみたいに運営していることを批判されたり、みんな対等な関係のままで患者さんの対応をすることができなかったのでしょう。

聞いた話では、とある地域で治療共同体の思想におもいっきりかぶれた精神科医がたまたまトップだったために、一部のややこしい患者さんたちが医師控え室を占拠して医師をつるしあげたり暴力をふるったり、無法地帯になって診療機能がストップしてしまったことがあったとか。

ややこしい患者さんもみんな含めてノーマライゼーションを実践する必要があるわけで、それを達成するにはある程度の規律が必要なことは明白です。にもかかわらず、現実に目を背けてロマンティックなお花畑を夢みてしまうことで、さまざまな歪みが生み出されていたようです。

さて、そのツケは誰が支払うのでしょうか?建前としてのノーマライゼーションによって排除されたややこしい患者さんは一体誰が受け入れているのでしょうか?

このへんが精神科病院への強制入院が急増している一因であると思うわけです。



モテたくてポリコレ

以上をまとめると、「ノーマライゼーション」という政治的に正しい/ポリコレを声高に主張して尊敬を集めて承認欲求を満たそうとするひとたちは、しばしば自分たちにとって都合のイイお行儀のよい患者さんばかりを集めて、ややこしい患者さんを排除するという矛盾を隠している偽善的なひとが多くて、中途半端なノーマライゼーションを実践して自己満足しているんじゃないかと思うわけです。

つまり、大きな声で主張するわりには、全然行動がともなっていないわけです。

しかも、自分たちが引き受けることのない、ややこしい患者さんを担当している援助者を批判することで、さらに自分のステータスをあげようとする身ぶりはとても浅ましいなあと思うわけです。
 

進化心理学者のジェフリー・ミラーは、「自分がいかに道徳的に優れているか」という言動をみせびらかすひとの習性を性淘汰の枠組みで説明しています。
People say they believe passionately in issue X, but they don’t bother to do anything real to support X.
情熱的にやかましく意見を表明するだけで実効的な行動をしない「ええカッコしいの役立たず」って、不思議なことに次々登場するんですよね、と。

ポリティカル・コレクトネス/政治的に正しい意見の表明は問題の解決そのものではなく、自分を魅力的に演出するための求愛ディスプレイに過ぎないという興味深い仮説です。
孔雀の羽
人間が異性に対して自分をアピールするときに、身体的魅力や社会的地位よりも効果的なのは「やさしさ」すなわち「道徳的な言動をすること」だったりすることはご承知の事実です。

つまり、「モテたくてポリコレ」。

伝統的に「性は道徳の敵」であるとみなされ、対比的に論じられてきました。西洋思想の伝統は心身二元論だからです。
  • 動物 身体 欲望 罪人
  • 人間 精神 道徳 聖人
フロイトの精神分析もこの枠組みにスッポリおさまっているし、進化心理学も道徳/あるいは利他性は個人や所属集団の生存効率を高める戦略であると論じられてきました。

ミラーは、このような二元論のバイアスを克服し、性的魅力と道徳を包括的にあつかうことで、新しい視点を得ようとしています。この試みは非常にエキサイティングで示唆に富みます。



次回は、精神障害と犯罪の関係について、最近の気になる動向をまとめてみたいと思います。