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精神病と芸術性/クリエイティビティ

高い開放性(好奇心旺盛で遊び心が満載な性格傾向)をもつひとが魅力的なのは、芸術性や創造性/クリエイティビティが高いからだったりします。何かしでかしそうな、何かデカいことやってのけそうな、あの感じ。


また、高い開放性は統合失調症と関連があるかもしれません。開放性とほぼ同じ概念である「新奇追求」がドーパミン神経システムと関連していること、統合失調症がドーパミン神経システムの不具合であり、急性期にドーパミン代謝が高まっていることなどからも予想できるからです。


ということは、統合失調症などの精神病とクリエイティビティは関係があるのでしょうか?開放性・クリエイティビティ・統合失調症、3つの関係はどうなっているのでしょうか?


開放性・精神病・クリエイティビティの相関図1


精神科医は芸術が好き?

かつて、精神障害者のアート作品「アール・ブリュット」がもてはやされた時期がありました。精神障害者こそが真の芸術をつくることができるのではないか、というロマンティックな考えが流行していました。
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統合失調症と診断されたアドルフ・ヴェルフリの作品です。たしかに、グッとくるものがあります。

また、精神科医は芸術に接近しがちな習性があるようです。

たとえば、高名な精神科医である中井久夫は、統合失調症の患者さんに絵画を描かせてそれを分析することによって、統合失調症の理解を深めようとしました。

また、日本を代表する精神病理学者のふたり、内海健は東京藝術大学の教授に就任し、斎藤環は芸術について熱く語っていたりします。


開放性、クリエイティビティ、統合失調症

前回紹介したジェフリー・ミラーの著書に興味深いが実験があります。
ニューメキシコ大学の学生225名を対象に、
  • 性格(ビッグ・ファイブ)および知能
  • クリエイティビティ
  • 統合失調症の傾向
それぞれテストして、3つの関連を検討しました。

クリエイティビティを測定するためのテストでは、文学的な作文と抽象画を作成させて、作品を4名の専門家によってそれぞれ独立して評価し、かなりの一致が得られたようです。

また、過去に統合失調症の症状を経験したかどうか、統合失調症の症状に親和性があるかを計測するために、74項目の質問に回答させています。

つまり、開放性・クリエイティビティ・統合失調症の傾向、3項目の関連について検討されています。


結果

  • 開放性と知性はクリエイティビティはよく相関していました。
  • また、開放性は統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想)とほどほどの相関を示しました。
  • クリエイティビティと統合失調症の傾向は、あまり相関がみられませんでした。
よって、あくまでもクリエイティビティの高さを予測するのは、統合失調症ではなく開放性でした。クリエイティビティの高さと統合失調症が関連しているように感じられるのは、両者を「開放性」がとりもっているからです。

統合失調症の症状がクリエイティビティを発揮しているわけではなく、高い開放性の「副作用」にすぎないのでしょうか。
開放性・精神病・クリエイティビティの相関図2


クリエイティビティと精神病に共通する基盤

一方で、クリエイティビティと精神疾患(統合失調症や双極性障害)が、共通する遺伝的要因をもっていることを示唆する報告があります。
研究では、アイスランドのバイオテクノロジー企業「デコード・ジェネティクス(deCODE Genetics)」が同国で集めたサンプルから得られたDNAコードを集積した遺伝子データベースを詳細に分析。まず、アイスランド人8万6000人の遺伝子情報と医療情報を比較し、統合失調症の発症リスクを2倍に、そううつ病を約30%増加させる特徴的なDNAパターンを特定した。

次に、芸術活動に従事する人々のゲノム(全遺伝情報)を詳しく調べた。アイスランドで視覚芸術、演劇、舞踏、文筆、音楽などの各芸術分野の全国規模の団体に所属する1000人以上から提供されたサンプルを分析したところ、これらの芸術団体に所属する人々はそうでない人に比べて、特定された遺伝子パターンを持つ確率が17%高いことを発見した。

ますます話がややこしくなってきました。クリエイティビティと精神病の関係は結局のところどうなんでしょうか?

ここで、時間軸を加えて考えてみましょう。
開放性・精神病・クリエイティビティの相関図
まず、遺伝的に規定されていることが知られている「開放性」は、「共通する基盤」として「クリエイティビティ」と「精神病」に関係しています。

次に、「クリエイティビティ」と「精神病」は、高い開放性が生み出した「結果」であると考えてみます。

つまり、生まれながらにして開放性の高いひとは、他のパラメーターの影響を受けて、クリエイティビティを発揮できる場合もあるし、精神病を発症する場合もある、ということです。

むりやりたとえるなら、共通の祖先をもつ人間とチンパンジーは確かに似ていますが、チンパンジーが人間に進化することはもはや決してない、といったところでしょうか。


高い開放性という危険なゲーム

開放性はクリエイティビティにとってプラスとなる一方で、開放性が極端に高くなると精神疾患に接近してしまうリスクを高めてしまうのかもしれません。つまり、高い開放性は危険なゲームです。

高い開放性によって言動があまりにも奇抜になりすぎると、社会的に恥をかいたり信用を失ってしまうことがあるでしょう。

また、高い開放性をもつひとは、高度にメディアが発達している現代社会においては、フェイクニュース、極端なイデオロギー、陰謀論、ありえない儲け話、カルト教団、危険なドラッグなどなど、有害なミーム感染のリスクにさらされやすくなりがちです。

ゆえに、それらのリスクにもかかわらず、高い開放性を保ったままクリエイティビティを発揮しているひとは、よりいっそう魅力的にみえるわけです。


きわどい作品をつくるアーティストは常識人?

新進気鋭のきわどい作品をつくる現代美術アーティスト24名に、精神科医・斎藤環がインタビューをしてまとめた書籍があります。
現代美術のアーティストといえば、破天荒で傍若無人なキャラクターを連想する人もいるだろう。しかし、私が会ってきた作家の方々は、みな謙虚で礼儀正しく、しかしみずからの作品世界については、きちんと「語る言葉」をもっていた。
大方の予想を裏切って、きわどい作品をつくるアーティストのひとたちはけっこう常識人で言語能力が高いようです。

つまり、彼らは高い開放性およびクリエイティビティの才能に加えて、安定性と高い知性を兼ね備え、さらに安全な環境や良き理解者にめぐまれていたことでしょう。

ゆえに、有害なミーム感染によって不適応になって身をもち崩すこともなく、いかんなく才能を発揮することができているのかもしれません。

ということは、華やかに活躍するアーティストの陰には、不適応なミーム感染によって身をもち崩したアーティスト志望のひとたちがたくさんいるわけです。

ならば逆に、開放性が低いひとたちは、不適応なミーム感染だけでなく、精神病の発病からあらかじめ身を守っているといえるでしょう。