高い開放性の魅力と代償


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パーソナリティモデル「ビッグ・ファイブ」より

前回はクロニンジャーの気質モデルを紹介しました(新奇追求、統合失調症、ドーパミン)。

パーソナリティのモデルとして有名な「ビッグファイブ」(5因子モデル)も遺伝要因が大きいとされています。
  • 開放性/openness 好奇心旺盛で遊び心がある。≒新奇追求
  • 誠実性/conscientiousness しっかり者で、だらしなくない。
  • 同調性/agreeableness 相手に合わせることができる。共感能力。
  • 外向性/extraversion 社交的なひと。報酬依存と関連。
  • 安定性/stability ストレスに影響されずに安定する。
5因子の高さはそれぞれ人間的魅力に関連しています。どの因子が魅力的に感じるかは、評価するひとの年齢や立場に関係しています。

開放性や外向性の高さは、若者にとって最も魅力的な特性であるといえるでしょう。歳をとるにつれて誠実性や同調性が重視されるようになっていきます。


主人公は中心気質

主人公は中心気質
伝統的な精神医学の気質論によると、開放性の高さは中心気質において顕著です。開放性の高い中心気質者が若者にとって魅力的である証拠は枚挙にいとまがありません。

たとえば、人気ある少年漫画の主人公は、ほとんど開放性が高い中心気質者です。
  • ドラゴンボールの孫悟空
  • ワンピースのモンキー・D・ルフィ
  • HUNTER×HUNTERのゴン=フリークス
  • 進撃の巨人のエレン・イェーガー(ちょっと屈折していますが)
みんな好奇心のカタマリです。そもそも主人公の開放性が高くないと物語が展開しないのでしょう。

ですが、「中心気質は破綻しやすいか」で書いたように、現代社会では中心気質は発達障害に通じる特性でありハンディキャップになりがちです。

中心気質というハンディキャップをもっていても、それを努力や仲間との協力によって乗り越えて活躍するからこそ、主人公の魅力がよりいっそう増すのかもしれません。


ストッティングというシグナリング・コスト

若いガゼルやスプリングボックは、天敵であるオオカミに襲われそうになった時に奇妙な行動をとります。すぐに逃げればいいのに、思いっきり真上にジャンプする「ストッティング」という行動です。
ストッティング
これではカンタンに天敵に見つかってしまい、逃げおくれる確率が高まってしまいます。「自分がオトリになって天敵をおびき寄せ、群れのなかの弱い個体を守るため」というロマンティックな説明があったようですが、逆に今では「こんなに高くジャンプできるくらい運動能力がに自信アリだから追いかけてもムダだよ、他のヤツを狙ってね」というシグナルを発している説が有力です。

ストッティングという「ハンディキャップ」をあえて背負い「シグナリング・コスト」を一時的に支払うことでターゲットから外されるという利益を得ています。オオカミ側も効率よく犠牲者を選択することができるという利益を得ています。

つまり、ストッティングでシグナルを発するガゼルと、シグナルを受けとるオオカミは、win-winの情報伝達/コミュニケーションをとっていることになります。

たとえば、難関大学卒業というシグナリング・コストを支払った就活生と企業の採用担当者の関係などなど、いろいろ説明できそうです。


ピート・タウンゼントはなぜ高く跳ぶのか

シグナルは単なる情報伝達ではなく操作できるものなので、これを逆手にとって戦略的に利用する個体がいもおかしくありません。

たとえばこのパフォーマンス。
whoストッティング
僕の尊敬するロックバンド「The who」のギタリストであるピート・タウンゼントはその演奏能力もさることながら、演奏しながら飛び跳ねたりギターを破壊したりと、破天荒なステージ・パフォーマンスに定評があります。

まじめな話、跳躍すると演奏しにくくなるので多大なコストを支払っているわけです。そのおかげで、このパフォーマンスは計り知れない視覚効果を生み出して、最高にカッコいいというシグナルは発するわけです。

楽器の弾けないミュージシャン

極端な話、楽器が弾けなくてもエキセントリックなパフォーマンスだけで存在を確立してしまうミュージシャンだっているわけです。これまた僕が尊敬してやまない「電気グルーヴ」のピエール瀧そのひとです。



若い頃ならまだしも、中高年になってもなおその高い開放性を維持することは、とても大きな重圧があったことでしょう。

今回の逮捕はとても残念でショックでしたが、過去の素晴らしい作品を発売停止にしないでほしいと願っています。また、もし薬物依存の状態であるなら回復を陰ながら応援していきたいと思います。


新奇追求、統合失調症、ドーパミン


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クロニンジャーの気質モデル

「性格」は後天的につくられる行動傾向のこと、「気質」とは生まれながらの行動傾向のことです。

クロニンジャーというアメリカの精神医学者がみつけた気質モデルのうち、神経システムに対応するものが3つあることが知られていて、それぞれ遺伝しやすいことがみとめられるようになっています。
  • 新奇追求
  • 損害回避
  • 報酬依存


    新奇追求


新奇追求/新しもの好き

新しかったり珍しかったりする刺激に対して興奮しやすく、それを追い求めるためにリスクをかえりみず衝動的に意思決定する性質で、ドーパミン神経システムと関係しています。

損害回避/損したくない

悪いことが起こるのではないかという予測に対して、それを避けてリスクをとらないよう慎重に用心深く意思決定する性質で、セロトニン神経システムと関係しています。

報酬依存/ほめられたい

義理堅く情に厚く、他者から喜ばれたり褒められたりすることで、良い人間関係を保つことを重視して意思決定する性質で、ノルアドレナリン神経システムと関係しています。


新奇追求と損害回避は相反する性質で両立は難しそうです。報酬依存はそれぞれと両立することができます。また、新奇追求/損害回避はより原始的な性質で、報酬依存はより社会的な性質を帯びているといえます。


伝統的な精神医学の気質分類との対応関係

伝統的な精神医学にある気質との対応関係はどうなっているでしょう。


新奇追求損害回避報酬依存
中心
循環
分裂

  • 中心気質 新奇追求が高くて、損害回避が低く、報酬依存には無頓着。
  • 循環気質 損害回避と報酬依存を重視して、新奇追求には慎重。
  • 分裂気質 報酬依存には無頓着で、損害回避はそこそこで、新奇追求は???
中心形質と循環気質は明確な対応関係がありますが、分裂気質は少し複雑なようです。


分裂気質/統合失調症と新奇追求

分裂気質は統合失調症の病前性格とされています。一方で、統合失調症は新奇追求に関与するドーパミン神経システムの不具合によるものであるとされています。

このへんの対応関係はどうなっているのでしょうか?

統合失調症がまさに発症する「急性期」について。記憶力と表現力が豊かな患者さんは、自分が発症するときの様子をつぶさに説明してくれることがあります。

とても怖い体験をされたひとがいる一方で、とても魅力的で感動的な体験をしたというひとがたまにいらっしゃいます。まるで新奇追求性が一挙に高まっているかのように。

たとえば、かつて中井久夫は今まさに統合失調症が発症していく瞬間をロマンティックに描写しました。
身体が全く鳴りを潜め、この奇妙な静けさを背景とする知覚過敏(外界のこの世ならぬ美しさ、深さ、色の強さ)、特に聴覚過敏、超限的記憶力増大感(読んだ本の内容が表紙を見ただけでほとんど全面的に想起できる確実感)と共に、抵抗を全く伴わず、しかも能動感を全く欠いた思路の無限延長、無限分岐、彷徨とを特徴とする一時期がある。
これはつまりドーパミン神経システムが過剰に作動して新奇追求性が高まった状態に他なりません。

「急性期」の病状が落ち着いて「消耗期」と呼ばれる段階になると、逆に新奇追求性が乏しくなり損害回避性が高まっているようにみえます。

このように、統合失調症は病気のステージによってドーパミン神経システムのバランスが変動する特徴があります。

急性期はすぐに終わってしまうので、どうしても消耗期から回復期にいる患者さんの割合が多くなります。なので、一般的には統合失調症/分裂気質と新奇追求はあまり関連がないように思われていたりしますが、実はとても関連が深かったりするわけです。


ドーパミンの高まり/統合失調症・恋愛・コカイン

ドーパミンは、脳の奥深くにある原始的な爬虫類レベルの脳部位「腹側被蓋野/VTA」からA10神経を経由して脳のあちこちにばらまかれます。
VTA
それによって主に活性化される脳の機能は
  • 欲望/Wanting
  • 動機/Motivation
  • 集中/Focus
などなど。生きる上でとても大切な根本的な機能であり、新奇追求に密接に関わっています。

ドーパミン神経システムは、統合失調症の急性期以外にも、激しい恋愛のさなかや、コカインを摂取している時に活発化することが知られています。

これはいずれも非合理的な事態であり、しばしば「狂気」と呼ばれたりします。

合理的な動物であるハズのヒトが、
古今東西、好むと好まざるとにかかわらず、非合理的な「狂気」にあこがれを抱かずにはいられませんでした。

それは一体なぜなのか。

奇抜なパフォーマンスをするミュージシャンや、狂気をロマンティックに記述する精神科医にあこがれを抱いていた若かりし頃を思い出しながら、これから少しずつ考えていきたいと思います。

ひきこもりのデメリット「孤独は健康に悪い」


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前回までは、ひきこもりのメリットをあげてきました。当然のことながら、ひきこもりにメリットがあるからといって支援しなくていいわけではないので、今回はひきこもりのデメリットをあげてみます。

「孤独の科学」という書籍を紹介します。孤独感が心身に与える影響を科学的アプローチによって明らかにしています。

孤独の科学


原題は「Lonliness: Human Nature and the Need for Social Connection」つまり、社会的つながりは重要で社会的ひきこもりはリスクが高いということが書かれています。

結論からいうと、ひきこもりによる孤独感は健康被害を引き起こします。精神はもちろんのこと身体の健康をそこない、正常な判断力が失われ、社会的な成功から遠ざかって、あらゆる不幸の源になるそうです。

loneliness

若かりし頃、一時的に孤独な状態に身を置くことは大切だったりします。周りの人に邪魔されずに好きなことに没頭する時期はあるでしょう。実際に、若者の孤独感はそれほど健康面に影響をおよぼさないこともありますが、孤独感が長期化したり高齢化するにつれて多大な健康被害をもたらすことが明らかになっています。


孤独担当大臣?

日本では、孤独は個人の問題であるとされていますが、英国では政府が対策に乗り出しています。

というのも、孤独による健康被害は1日にタバコ15本を吸うのと同等であり、イギリスの国家経済に与える社会的損失は年間4.7兆円ともいわれています。

複数の団体が運営するウェブサイト「孤独を終わらせるキャンペーン」には、孤独感に悩む人に向けた対処法が掲載されています。

英国のメイ首相は、2018年1月18日に「孤独担当大臣」というポストを新設しました。スポーツ・市民社会担当国務次官を務める英国保守党のトレーシー・エリザベス・アンネ・クラウチ氏を任命し、孤独解消のために全省庁をあげて戦略を練っているようです。将来は「孤独省」が新設されるかもしれません。

精神疾患の背景に孤独の問題がひそんでいるケースはけっこう多くて、心理療法や薬物療法よりも居場所がみつかることで症状が改善するケースは少なからず経験しています。


孤独感が健康に与える影響

まず、孤独が身体に与える影響は深刻です。循環器系、呼吸器系、消化器系、免疫系などなど、全身の臓器にトラブルが起こるリスクが高まるようです。身体に悪いことをしていなくても、孤独を感じるだけで病気になって死ぬ確率が高まるという恐ろしい話です。

次に、精神に与える影響は多彩です。
  • アルコールなどに依存しやすくなります。孤独をうめるために依存症になります。
  • 過食になったり、性的にだらしなくなる。口さみしいのは本当にさみしいのです。
  • 自制心がきかなくなり、判断力がにぶります。
  • 楽観的になれなくなり、リスクのあることに挑戦できなくなります。
  • ブラックな状況を変えることなくひたすら耐えるようになります。
  • 他人にSOSをだせなくなって、ますますひとを遠ざけるようになります。
  • 他人の意見をうのみにしたり迷信深くなったりします。
どれも生きていく上で決定的なデメリットになるでしょう。

依存症のひと、過食してしまうひと、性的にだらしないひと、自制心のきかないひと、ひどい状況を変えるために何も行動せずにズルズル現状を維持しているひと、うさんくさい他人の言われるがままにカモられているひとたち、などなど。

そのようなひとに対して世間は冷たかったりします。自業自得であると断じられて、支援の優先度は下がってしまいがちです。その結果、さらに孤独感を強めるという悪循環におちいります。

また、基本的に福祉的な支援は自分で申請しないとやってもらえないことがほとんどなので、本当に支援が必要なひとほど支援されていないことが多かったりします。

このような傾向のあるひとに対しては、表面にある問題そのものよりも、背景にある孤独感について想像をめぐらせてみることが重要だったりします。

なので、支援者は「気にかけているよ」という社会的なシグナルを送り続けることから始めなければなりません。


倫理を科学的に規定すること

孤独という個人的かつ主観的な感覚を科学で規定していいのかという問題があります。

いちいち科学的に証明されるまでもなく、孤独で困っているひとを助けることは倫理的にあたりまえなことだと言うひともいるでしょう。

福祉の領域では「どんなひとにも手を差し伸べなくてはいけない」という無条件に規定された倫理観があります。しかし、これを維持することはけっこう過酷なことです。言うは易く行うは難し。

現場でこれを忠実に守る聖職者のような支援者は、自分自身の尊厳を失ったり倫理的でない状況に自分自身が追い込まれることがあるからです(対人援助職のひとが幸せになりにくい理由)。

また、いかに正当性のありそうな倫理的判断でも、まちがった事実認識の上に立っていたとしたら、それは倫理的ではありません。

聖職者のような高い志をもった特別なひとだけではなく、普通にだらしないひとでも支援者をやっていくには、科学的に納得感のある根拠を示して倫理を規定していくことが重要です。

特に医療は科学の末席なので、科学的な事実認識に基づいて倫理的判断がなされるべきであると思う今日この頃です。

ひきこもりのメリットその3「欲望を他人に利用されない」


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ひきこもりのメリットについてまとめています。


今回は、3つめのメリットをかなり偏った視点から考えてみようと思います。


欲求と欲望

限りない要望

欲求と欲望は似たような言葉ですが定義が違います。

動物的な欲求(睡眠欲・食欲・性欲)は、いったん満たされればとりあえず解消されます。

一方で、人間の社会的な欲望には限りがありません。友だちをつくりたい、目立ちたい、注目を集めたい、高い地位につきたい、尊敬されたい、評価されたい、チヤホヤされたい、他人がうらやむモノを手に入れたい、自慢したい、他人を支配したい、などなど。

ひきこもり状態が長期化しているひとは欲望をもたなくなります。欲望をあきらめているか、もしくは、興味を失っているようにみえます。誰にも会いたくないし、他人の評価なんてどうでもいいようにみえたりします。

まるで徳の高い修行僧のように世俗を離れてストイックな生活をして「ありがたい」雰囲気を身にまとっていることもめずらしくありません。


欲望は他人の欲望?

ジャック・ラカンという精神分析の巨匠がこう言いました。要するに「他人の欲望するものをひとは欲望する」ということです。

ひきこもり専門家の精神科医である斎藤環はジャック・ラカンを紹介しつつ、「ひきこもり状態にあるひとは他人と接触しなくなるため自分の欲望を見失ってしまう」という問題を指摘しました。

そのため、ひきこもりの支援においては、欲望をもたらしてくれる「第三者」と接触することを重視しています。

これは臨床上はとても有効です。とりあえずアカの他人つまり「第三者」である支援者が定期的に接触して対話を続けることで、ひきこもり状態が解消されていくことがあるからです。


「第三者」ってどんなひと?

でも、なんとなく腑に落ちないのがこの「第三者」という存在です。

斎藤は「第三者」について、
① 親のように愛情と熱意をもって接触する者ではなく
② 利害関係のある者でもなく
対等でフラットに対話が続けられる存在であるとしています。

実際には、そんなひとはいるわけありません。一時的にそんな存在になれることがあるかもしれませんが、たいていは持続しません。

まず、支援者も人間だからです。時には情熱を抱いてしまうし、あらかじめ利害関係が存在しているか、後になって必ず生じてしまうからです。

とりあえずの指針として理論は有用ですが、臨床現場はなにかとカオスなので理論を信奉するだけではうまくいきません。


なぜ欲望をもたなくなるのか?

そもそも、欲望をもたらす「他者」と接触しなくなることで二次的に欲望をもてなくなるという説明は、ひきこもりの持続要因に過ぎません。

この点について、評論家の岡田斗司夫が、哲学者の内田樹との対談のなかでリアリティのある説明をしています。
いま、若い男子が一番嫌なことっていうのは、誰かにいいように利用されるっていうことなんですよ。利用されたり、いいようにされたり。

だから草食系になっちゃうのはなぜかというと、欲望というものを持ってしまったり、それが他人にばれたら、巧みに利用されてしまうと思っているから。

欲望を逆手にとって操られるのが怖いから、欲望に背を向けようとしているんですね。欲望というのを意識したくないし、できれば持ちたくない。

そうすると女の子のほうはイライラしてくる。欲望あるでしょ、と。
他者と接触しなくなった結果、欲望をもたなくなるその前に、積極的に欲望から背を向けているというわけです。

これは、欲望を見透かされた瞬間に負けが決定するゲームがあちこちで展開されていて、ストレートに欲望を表に出してしまうひとはカモにされるルールが存在している状況では、とても合理的な行動と言えます。

たとえば、ひきこもりがちだった自閉スペクトラム症をもつひとが、なまじソーシャルスキルを身につけて社会に出てしまったがゆえに、詐欺にひっかかってしまう悲劇はめずらしくありません。


[理想の自分]ー[現在の自分]=[利益]

日本は世界的には豊かな国なのに幸福度が低いようです。これは、自分よりもキラキラ幸福なひとがメディアに露出していることが一因です。上をみあげることで欲望に火がともされて、今の自分に満足することができずに、夢・やりがい・自己実現を求めてしまうようになります。

そして、欲望を達成した[理想の自分]と[現在の自分]の「差分」が、かけはなれていればいるほど大きな利益を発生させることができる仕組みがあちこちに存在しています。

美容・健康・ダイエット・ギャンブル・アイドル・SNS・自己啓発・やりがい搾取・情報商材・スピリチュアル、などなど。さまざまな産業がそんな欲望に狙いをさだめています。いったん欲望に火をともすことさえできればあとは勝手に利益を生み出すことができます。

さらに、それを持続可能にするシステムとして消費者金融が機能しています。闇金ウシジマくんの世界です。

闇金ウシジマくん Part 3
山田孝之 (出演), 綾野剛 (出演), 山口雅俊 (監督, 脚本)
2017-02-25


うっかり欲望をもってしまったがゆえの「代償」はウシジマくんによってキッチリと回収されます。[理想の自分]から[現在の自分]へ反転する瞬間のカタルシスに向かって物語は進行します。

  

手を差しのべておいて出しぬく

そして極めつけがコレです。肥大した欲望のせいでお金を巻き上げられてスッカラカンになるだけならまだしも、「手を差しのべておいて出しぬく」裏切り行為には耐えがたいものがあります。

その昔、精神病理学では、分裂気質/シゾイド性格のひとに対してコレをやると、統合失調症を発症してしまう説が素朴に信じられていました。

でも冷静に考えれば、シゾイド性格でなくてもコレをやられたらメンタルやられることくらい誰にでもわかります。

例えば、曲がったことが大嫌いで原理原則にこだわる自閉スペクトラム症のひともたいそう深く傷つくことでしょう。

PTSDが長引く原因のほとんどがコレだったりします。大災害そのものよりも裏切り行為の方がひとを深く傷つけます。

依存症の原因にもなるでしょう。裏切られて傷ついてポッカリあいた穴を埋めるためです。アルコールとか薬物は、そのような経験を一時的に忘れさせてくれるからです。


まとめ

というわけで、肥大した欲望を抱いていることが他人にバレてしまうことはリスクになることがあります。ゆえに、ひきこもりのメリットその3は「欲望を他人に利用されない」です。得るものは減ってしまいますが、失うものがなくなるのでとりあえず安心です。

ひきこもりのメリットその2「働かなくてもいい」


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ひきこもることで闘争を避けるようになることは犯罪率の低下に関係しているかもしれません。それは結構なことかもしれませんが、ひきこもりが自殺の原因になっている可能性があったりするのは問題です。


自殺率と失業率の密接な関係

自殺者と失業者は同じように推移しています。つまり、無職のひとは自殺しやすいのです。

バブル崩壊後から自殺者数が増加の一途をたどり、一時期は年間3万人を超えて高止まりを続けて大騒ぎになりました。自殺対策の予算がたくさんおりて、僕も学校で自殺対策の授業を頼まれてやったりしてました。

ところが結局、2010年代から失業者が減ってくると自殺者も減ったわけです。失業者減少の原因は、金融政策の効果とか人口動態の変化とか諸説あります。ともかく、失業者を減らすことは自殺対策に効果的であることは明白です。

男女別で見てみると、
【男女別】実業率と自殺率の関係
女性は失業率と自殺率が相関していませんが、男性は驚くほど相関しています。つまり、「無職の男性は生きる価値がない」という世間からのプレッシャーがすさまじいことがわかります。

はたして、汗水たらして働いていない男性は生きる価値がないのでしょうか?

もちろん、そんなことはありません。


トマ・ピケティの「r>g」

フランスの経済学者トマ・ピケティの「21世紀の資本」は150万部を超えるベストセラーになりました。
21世紀の資本
トマ・ピケティ
みすず書房



古今東西膨大なデータを解析することで「r>g」という法則を実証しました。

r/資本収益率 所有する株や不動産から得られる利益
g/経済成長率 労働による収益、働いて得られる給料

汗水たらして働くよりも、株や不動産を持つことで配当や家賃をゲットしているひとの方が儲かっていることは、これまでもみんなうすうす気づいていましたが、ピケティさんが身もふたもなく実証してしまったのです。

なので「汗水たらして働くことが正しい」という価値観は必ずしも正しいわけではないということになります。

つまり「汗水たらして働いても幸せになれるとは限らない」し、「働くこと」はさまざまなリスクを抱えることでもあるわけです(職場はうつ病の玄関口か?)。


アンチ資本主義としての「働いたら負け」

賃上げデモ
r>gゆえに、賃金を上げることで富の再配分を促進させることはとても大切なことです。賃金上げろデモは正論であることに間違いありません。

しかし、賃金上げろデモよりもたったひとつの冴えたやりかたがコレ。まさに過激なパンクです。
働いたら負け
みんなが一斉にコレをやると資本主義システムが維持できなくなるので、お行儀よくデモをやってくれた方がよっぽど助かります。


非社会的行動としてのFIREムーブメント

関連する現象として、アメリカのミレニアル世代/1980年代〜2000年初頭生まれの若者たちを中心に静かなブームを巻き起こしてるFIREムーブメント。

FIRE/Financial Independence , Retire Early(経済的に自立して早く引退しよう)。
FIREムーブメント
アリーとジョーはふたりとも教師。徹底した倹約と投資によって100万ドルの資産を築き、30代で仕事をリタイア。その後も年間支出2万ドルの倹約生活を続けながら気ままに暮らしています。

若いうちから贅沢せずに徹底的に倹約し、株や不動産など資産形成して不労所得を積み上げ、早期にリタイア。ナニゴトにもしばられずに自由気ままに生きていくスタイル。旅行したり、ブログやSNSで情報発信したり、趣味を楽しんだり。

社会との関係がタイトではなくルーズなわけです。このようなライフスタイルが支持されてきつつあるようです。

日本でも早期リタイアを達成したひとのブログがちょこちょこみられるようになっています。のぞいてみると、ひきこもり気質のひともけっこういるようです。

ひきこもりは、非行や犯罪などの「反社会的行動」と対照的に「非社会的行動」と呼ばれています。社会から背を向けて、社会と関係を結ぶことを拒否することです。

そうすると、早くから職場という社会から降りていくFIREムーブメントは、とてもうまくいっている非社会的行動といえなくもありません。


まとめ

「汗水たらして働かないヤツはダメだ」という価値観は自殺率を高めます。また、資本主義システムには矛盾があって「汗水たらして働いでも幸せなれるとは限らない」ので、職場という社会から降りていく生き方を選択することは合理的だったりします。

つまり、ひきこもりのメリットその2は「働かなくてもいい」ことです。

もちろん「働くこと」は富を手に入れるだけでなく、仲間と共に協力して大きな仕事を成し遂げることで達成感を得たり、自己実現を目指す手段でもあります。幸福度を高めるための重要な営みであることも確かです。

次回は、そのへんも含めつつ、ひきこもりのメリットその3「欲望を他人に利用されない」について考えていきます。

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